黒神

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僕は人知れずひっそりと建っている教会へ足を運ぶ
その教会を見付けたのはいつだったか
もうその時には既に荒廃しきっていて
その中で壊れた天井から射し込む黄色い柔らかな光を浴びて
美しい金髪の青年は祈っていた
その横で僕も祈るのが今では日常となっている
そして一頻り祈った後2人で僕が持って来たパンを食べるのだ
「あなたはいつも何をそんな熱心に祈っているの?」
彼は悲しそうに笑った
「戦争に行ったきり帰って来ない友達が無事であるように、と」
僕は複雑な気持ちでいっぱいになった
戦争に行ったならもう……
「彼の生死も分かっていないんだ、死んでいるかもと僕も思う」
彼は俯いた
「でも生死が分からない以上僕は祈り続ける、また彼に会えるように」
そして僕達はまた祈る
僕は今までこの教会が好きでただ何となく通って
ただ何となく祈っていた
でも今は彼が友達と会えるようにと心から祈っている
ある日僕は聞いてみた
「友達ってどんな人?」
「僕より背が高くて力が強くて……」
そしてフッと笑った
「誰よりも優しかった」
彼は遠い目をして言った
「神がこの世にいるならきっと彼のような姿をしていると思う」
「いつ戦争に行ったの?」
「ずーっと前」
彼はもう何も言わなかった

翌日いつも通り教会へ行くと彼は泣きながら祈っていた
「もう彼とは会えないのでしょうか彼は……生きているのでしょうか」
僕はいたたまれなくなって彼に駆け寄り背中をさすった
「すまない……僕は彼に会った最後の日喧嘩をして……」
彼は嗚咽を漏らしながら言った
「どうしても仲直りしたいんだ、また彼と笑いたいんだ」
その時強風が吹き天井からパラパラと石が降ってきた
彼は僕の顔を凝視した
「君……その傷……」
僕は前髪をかきあげた
「これ? 何の傷か分からないんだ、気付いた時にはもうあって……」
そこまで言ったところで彼は再びボロボロと泣き始めた
僕には彼が何で泣いているのかわからず
ただあたふたとしている事しか出来なかった
しかし、次の瞬間彼が僕の額の傷に触れると……
「! ……これって……前世の……?」
この人生で経験していない筈の様々な記憶が溢れ出して来た
その中に彼がいた
「君だったんだね……僕は戦争に行って欲しくなくて……」
「そうだ、それで喧嘩して突き飛ばされて……」
彼は記憶の中の僕よりずっと小さな僕を抱き締めた
「ごめん、ごめんよ……僕はずっと後悔していたんだ」
彼の胸で彼と一緒になって僕は泣いた
「そんな前の事もう怒ってないよ、僕を思ってした事だろ?」
そして彼から離れ顔を見て言った
「寂しい思いをさせたね……僕は大丈夫だから、もう行きなよ」
彼は頷きもう一度僕を抱き締めた
「ありがとう」
彼は消えた
あの日と同じ黄色い柔らかな光の中に
僕はまた彼に会えますようにと最後の祈りを捧げた
そして彼との思い出の教会の思い扉に鍵をかけ近くの川へ投げた

数ヶ月後僕に弟が生まれた
美しい金髪の男の子だった
きっと彼だと直感で思った
「おかえり」
あの教会は崩れてしまってもう影も形も無い
あれはきっと僕達を再び会わせる為に
かろうじて姿を保っていた記憶の教会なのだろう
僕の頭の中にはあの教会で必死に祈る彼の姿が今でもある

Title¦閉ざされた教会

6/8/2022, 12:47:06 PM