かたいなか

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「『愛を注いで』、『愛言葉』、『秋恋』に『春恋』、『I Love』。そもそも恋愛ネタのお題が多いアプリではあると思う」
まぁ、いつか「愛を歌う」とか来るとは思ってた。
某所在住物書きは1986年リリースの「ラブソング」を、そのフランス語版を聴きながら、
パチパチ、ぱちぱち。キーボードに指を滑らせて、
何度目か知れぬ「愛」を書き終えた。

ひと昔前、中国語版をウーロン茶のCMで聞いた。
フランス語も聞き覚えがある。どこであったか。

「……それ言ったら『愛をささやくならフランス語』って、出典どこだっけ?小説?」
知らぬ。原典を未履修である。

――――――

最近最近、都内某所のおはなしです。
某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で暮らしておりました。
そのうち末っ子の子狐は、遊び盛りの食いしん坊。
食べることも、遊ぶことも、頭やおなかを撫でてもらうことも大好きで、
特に人間が心や魂を込めて作ったお肉やお稲荷さんを、それはそれは幸福な顔して食べるのでした。

先日コンコン子狐の、お家の稲荷神社では、
ゴールデンウィークに合わせて、神社マルシェが開かれておりました。
美味しいお菓子に美味しいお肉、美味しい酒に美味しいお稲荷さん。神社は美味の香りでいっぱい。
子狐も食いしん坊仲間と一緒に、マルシェのごちそうを存分に堪能しました。

で、そんなコンコン子狐が、どこの何に対して「ラブソング」を歌ったかといいますと。

「おいしい、おいしい、おいしい!」
そうです。食べ物です。
大盛況のうちに終わった神社マルシェに、稲荷寿司風の味付けをした、さつまいもチップスが売られておって、それを子狐が大量購入したのです。
「さつまいもチップス、おいしい!」

稲荷神社のマルシェということで、「おキツネまっしぐら味」と名付けられたチップスは、
稲荷寿司をイメージした、いわゆる砂糖の甘さと醤油のしょっぱさ。すなわち、みたらし風味。
コンコン子狐、甘さとしょっぱさの無限ループを、
完全に、まさしく「おキツネまっしぐら」の商品名通りに、ドチャクソ愛してしまったのです。

「あまい、しょっぱい、あまい、しょっぱい」
かりかりかり、ぽりぽりぽり。
コンコン子狐、幸福に尻尾をぶんぶん振りながら、
なんなら体もちょっと揺らしながら、
「おいしい。おいしい」
稲荷寿司の、特にお揚げさんイメージなさつまいもチップスを、1枚、1枚、次は2枚。
器用につまんで、噛んで噛んで、堪能します。

子狐の美味コールはチップスへのラブソング、
子狐の尻尾ぶんぶんはチップスへのラブダンス。
かりかりかり、ぽりぽりぽり。
ああ、もう、1袋食べちゃった。
短期的に失恋して、もう1袋に恋をして、
さあ、御狐まっしぐら。子狐のラブソングを歌いましょう。子狐のラブダンスを踊りましょう。

ところで子狐が買い込んだ、稲荷寿司味のさつまいもチップス、どうやら残り3袋のようですが?

「おいしい!おいしい!あまじょっぱい!」
歌というのは、いつか終わります。
恋というのも、いつか終わります。
コンコン子狐はそのまんま、さつまいもチップスを食べ続けて、次から次へと、袋を開けます。

「もう1ふくろ!」
一気に2袋を食べ終えて、残りは最後の1袋。
それを開けようとして、はたと、
子狐コンコン、気付いたのです。
子狐コンコン、恋から目覚めたのです。
これを食べ終えてしまったら、御狐まっしぐらのさつまいもチップスとは、おわかれなのです。
「チップス、ちっぷす……!!」

ギャーン!ぎゃーん!
会えなくなる寂しさを、引き離される苦しさを、
子狐は狂おしく、吠えて吠えて歌います。
子狐のラブソングは一転、別離の悲恋歌。
恋はいつか、終わるのです。
「さつまいもチップス、おわかれしちゃう!」

ああ、ああ、愛しいあなた。残りたったの1袋。残りたったの50gになっちゃった。
子狐コンコン泣き倒して、でも食べたいので、
最後の1袋は大事に大事に、まさに楽しい恋から思いやりの愛に変わるように、
1枚1枚、よく味わって、よく噛み締めて、
それを、食べ終えたとさ。

5/7/2025, 4:07:40 AM