梨
あれはかなり昔の事
私が東京の端っこの二階のアパートに同棲していた頃の話
部屋にはなんにもなくって…少しずつ必要な物を揃えていたっけ
貧乏だったけど楽しかったと今は思える。
ある日田舎から段ボールが送られてきた。
少し甘い香り…
すぐに空けると洋梨がびっしり…
私の大好きな洋梨。
熟しているらしく芳醇な香り、所々茶色くなって柔くなっていた。
中からひとつ掴みそのまま大きな口でがぶり…
果汁が滴り落ちて、久しぶりの味は私を田舎の梨畑に瞬間移動してくれた。
何年帰ってないんだろ…
出てくる時、2度と戻らないつもりで東京に来たのだった。
結局、私には合わなかったようだ。
あれ程嫌いだった田舎に戻り根を張っている。
子供達に梨を剥いて食べさせてあげよう。
私の母のように…。
10/14/2025, 3:02:29 PM