ストック

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Theme:楽園

レースカーテンの隙間から柔らかな陽光が射し込んでいる。
窓を開けると、春先の柔らかい青空が広まっていた。今日も天気は快晴だ。

部屋の空気が入れ替わると、私は窓の鍵を閉めた。
しっかりと鍵がかかっていることを確認すると、リビングへと向かう。
彼女の部屋にも日の光をいれてやらないと。
彼女の部屋にかかったタオルケットをめくると、既に彼女は目を覚ましているようだった。
白と銀色のふわふわとした羽毛とクリっとした瞳をもつ文鳥。彼女は私の家族だ。

「おはよう。今、扉を開けるからね」
ケージの扉に手を掛けると、彼女は待ってましたとばかりにリビングを飛び回る。

ここは彼女の楽園だ。
ケージの掃除をしながら、ふとそんな考えが頭を過った。
水も食べ物も安全な寝床もおもちゃも、彼女が幸せに暮らすのに必要なものはすべて揃っている。
ケージから一歩出たら、彼女にとっては広い外の世界が向かえてくれる。
今日も彼女は探検に余念がない。最近はクッションの裏側を秘密基地にしているようだ。

子供の頃、私は鳥かごの鳥は可哀想だと思っていた。
空はこんなに広いのに、その広さを知らないままだから。
でも、大人になった今は別の考えをもつようになった。
空を知らなければ、空に焦がれることはない。
人間から見れば小さなケージと決して広くはないリビングの一室。
それが彼女にとっては世界のすべてで楽園なのだから。
それは不幸なことではない。

そうは思っているのだけれど、こんなに天気のよい日にはふと彼女に尋ねてみることがある。
「ねえ。窓の向こうの世界に楽園を探しに行きたいと思う?」
彼女は応えるように囀りを返してくれる。
私はそれを否定だと受け取って、今日も彼女とこのリビングで一緒に過ごす。

5/1/2024, 8:19:17 AM