雫=水や液体のしたたり
したたり=ポタポタ垂れ落ちること
最近は雑談が多いので物語にしようかな(゜゜)
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ザーザーと降る雨が、残り僅かの桜を散らしていく。
ボタボタと大粒の雨を受け止める黒い雨傘をさす男は、濡れそぼつ桜から大粒の雫が溢れるのを静かな眼差しで見つめるとポツリと呟いた。
「春雨じゃ、濡れてまいろう…なんて、風流な事は過去の事だね」
降り注ぐ雨は容赦がない。
男の通勤靴は水没し、しとど濡れるスラックスも肌にピタリと張り付き体温を奪っている。
桜の下にある側溝からは、排水が間に合わないのか、雨水が溢れはじめている。
夏のゲリラ豪雨と対して変わらない雨だ。
気候が狂って久しい今日此の頃。季節的な風流を求めること自体不毛というものなのかもしれない。
男は小さく笑うと、
「気候狂いのカオスな雨故、濡れてまいろう」
グチョグチョと靴音を立てながら水溜りを避けることなく歩き出した。
市街地を抜け、田畑が広がる長閑な道を進む。
歩行者の事を考えられていない道は、アスファルトが無く、地面が剥き出しという所も少なくない。
男の進む道もそれに漏れること無く、雨によって泥濘んでいる。
泥濘の道に構うこと無く、男は進んでいく。
吹き付ける雨は止むことを知らず、相変わらずザーザーと音を立て、雨傘を強く叩いている。
悪路を超えると、前方に小さなビルがポツリと見えてきた。
年季の入ったビルで、外壁の劣化や汚れが著しい。門扉にかけられた南京錠が追い打ちをかけるかのように、廃墟のような様相を醸している。
しかも、南京錠と一緒にぶら下がっているアルミ製の看板は──雨風に劣化したのか──研究所の文字だけ辛うじて残っている状態だ。
ご近所が無いので評判は不明だが、端から見ると怪しい建物にしか見えない。
男は、カバンから大小様々な鍵が付いたキーリングを取り出すと慣れた手つきで南京錠を開け、敷地内へと進んだ。
建物に反して敷地内は整備されており、一角には手入れの行き届いた色とりどりの花々が植えられている。
そのおかげか、外から見た時に感じた廃墟感は一気に薄れ、人が日常的に出入りしている所だと感じられる。
男はビルのエントランスで傘を閉じると、傘に付いた水滴をバサバサと払った。
キーリングに付いた鍵の一つを手に取り、ビルの自動ドアを解除しようと屈んだ瞬間、背後から影がさした。
「博士、おはようございます」
「あ、おはよう」
振り返りながら挨拶を返すと、助手がニコニコしながら立っていた。
ニコニコしているけれど、不穏な何かを感じる。
なんだろう?
首を傾げ助手の視線をそれとなく追う。
僕の顔を見ていない?
心なしか視線が足元の方に向かっているような。
「博士、お着替えされてから研究室に来てくださいね。そのまま入ったら今日のお茶菓子抜きですからね」
足元を見ると、子供が雨の日にはしゃいだような状態になっていた。
4/21/2024, 2:17:21 PM