かたいなか

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「『愛』はこれで4回目で、『恋』も含めりゃ9回目なんよ……」
某所在住物書きは頭を抱え、天井を見上げた。
ほぼほぼ、1ヶ月に1回のペースといえる。統計として、来月で祝10回目、年越し12月で11作品を投稿する計算になる、かもしれない。
無論、所詮、過去からの統計である。未来を保証するものではない。

「……そういや、『愛は食卓にある』ってキャッチフレーズがあるな」
技術に対する愛がマリアナ海溝と思われる、某魔改造番組を観ながら、物書きは呟いた。
愛が食卓にあるなら、「愛言葉」は「いただきます」か、「食ったら食器洗って片付けろ」だろうか。

――――――

水曜日から無断欠勤してた、隣の隣部署の新人君が、正式に辞めることになったらしい。
ハッキリそうだって言われてるワケじゃないけど、原因は重過ぎたノルマだって言われてる。
2回3回くらい自腹して、それでも全然足りなくて、お客も上司や先輩に取られ続けて誰もサポートしてくれなくて、って経緯だったとか、ただのウワサとか。

新人君の部署のひとは表面上、皆、「はいはい離職離職」の無関心で、最初っからそんな人は居なかったような平常運転。
何事も無かったように仕事してる。
課長と係長っぽい人なんて特にそうだ。多分前の前の段階で見切りをつけて、仕事の再配分なんかとっくに、終わらせちゃってたんだと思う。

「まさしく、ここの人材が人『材』である証拠だ」
自称人間嫌いの先輩が、なんか偽悪的っぽい微笑してポツリ言った。
「消耗品。代用可能。居ようと居なくなろうと、何事もなく仕事はまわる。定期的なメンテナンスを受けて大事に使われるだけ、備品の方がまだ扱いが良い」
所詮、私達はネジの1本、歯車の1個。
ああ、憎い、恨めしい。これが人間の、利己的かつ排他的な本性だ。
先輩のセリフは芝居がかってたけど、ちょっとくらいは、新人君への同情も、……いや、うーん……。
どうなんだろう(いっそ全部諦めてる説)

「人間大事にしない職場はダメだと思う」
「理想論ではあるが、確かに、ごもっとも。
じき私達の職場にも、人手不足の波が来る。このまま大量採用大量消費を続けていては、」
「そうじゃなくて。ちゃんと従業員に寄り添って、重過ぎるノルマなんてやめて、メンタルケアとかサポートとか、しっかりやってくれなくちゃ」
「使い捨ての消耗品を、割り箸だのレジ袋だのを大事に使うやつがどこにいる?」

「いるじゃん。ここに」
「お前か?」
「先輩、私がオツボネ係長に仕事のミスで騙されたとき、寄り添ってくれたじゃん」
「……わたし?」

お前も人を見る目が未熟だな。
人間嫌いの私が、いつ、お前のメンタルケアとサポートをしたって?
照れてるんだか呆れてるんだか、ため息吐いた先輩は、ちょこっと両眉上げて、戻して、自分の仕事に淡々と戻った。

先輩が「自称人間嫌いの捻くれ者」なのは、多分8年前に先輩の心をズッタズタのボロッボロに壊しやがった初恋さんのせいなんだろうけど、
それにしたって、なんだかんだで、私とか例の新人君のこととか気にかけてくれるのは、そのとき言ってくれる言葉は、
「恋愛」云々じゃなく、同業者とか仲間とか、そういう「絆」っていう意味で、いわゆる、先輩なりの愛情表現、先輩なりの愛言葉の示し方だったりしないかと……いや、うーん……。
やっぱ分かんない(しゃーない)

「ところで、」
「なーに?」
「行きつけの茶葉屋から、塩レモンの軟骨唐揚げと、ウナギの蒲焼きの差し入れを貰った。お前も食うか」
「先輩大好き愛してるいただきます」

10/26/2023, 2:07:38 PM