シオン

Open App

(付き合っている世界線)

「きみと出会ってからすごく幸せだよ」
 そう言ったらきみはやけに怪訝な顔で言った。
「急に、何……?」
「まるで前みたいな反応だね。僕たち、付き合っているんだよ?」
「それはそれ。これはこれ。突拍子なさすぎて、ボクは理解不能なんだけど?」
 そうかな、なんて思った。
 僕がもともといた天界で付き合っていた天使たちは日頃の感謝を述べるのは真っ当なことで、常識だった。
 だからやってみたのだが、どうやら彼女には不評らしい。
「…………事実を伝えただけだけど」
「……………………演奏者くんはいつからポエムみたいな言葉を吐くようになっちゃったのかなぁ」
「フォルテ、だよ」
「…………皮肉に気づかない鈍感くん」
 むっとした顔で言われて、僕は首をかしげた。
 何が皮肉なのか、理解不能だ、なんて言ったらきみはさらに怒るから何も言えないけれど。
「メゾは僕と出会って何か変わったかい?」
「そりゃもう、めちゃくちゃ。権力者という集団で大混乱。ユートピアの常識が覆されたんだから。その結果、住人に戻されそうだったボクが君担当として使われることになった」
「じゃあ、僕のおかげできみはここにいるのかい?」
 そう聞けば、少し考える素振りをした後、頷いた。
「そうか。それはうれしい」
「あと、フォルテと出会って変わったことでしょ? 何かあったかな……」
 さっき、名前で呼べと圧をかけた身で言う事ではないが、彼女に名前を呼ばれるのはそれなりにめちゃくちゃドキドキする。
 今までは『演奏者くん』と、役職名+敬称だったのが『フォルテ』と突然名前の呼び捨てに変わってしまえば動揺するのは当然で。
「ああ、恋心を知ったこともだね」
 心臓が大きな音を立てた。
 恋心を知った? 僕に出会って?
 何気ない顔で考えていたメゾはこちらの方を向いて少し微笑んで言った。
「顔、真っ赤だね。フォルテ?」

5/5/2024, 2:19:54 PM