Sweet Rain

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 ススキを花束にして渡したら、グーで殴られた。

「殴ることないじゃんかよぉ」

 痛む頬を手で擦(さす)りながら、俺は文句を垂れる。
 目の前には、俺よりもずっと小さい女の子。


「やかましい! 戯言(たわごと)を抜かす元気があるのなら、もっと可愛い花を持って来ぬか!」

 この可愛らしい風貌で、なんて横暴なヤツなんだ。
 俺も負けじと声を張り上げる。

「お前こそ、文句言う前に礼が先だろ?! 失礼なヤツめ!」
「失礼は汝(うぬ)じゃ! 稲穂ばかり寄越す人間らに飽き飽きした故、汝に別の花を持って来いと申したのじゃ!」

 クラスでよく声がでかいと叱られる俺。
 しかしその倍の声量で反撃されて、ちょっと泣きそう。

「ススキを舐めんじゃねえよぉ……花言葉いっぱい持っててさぁ……縁起もいいのにさぁ……」

 後半は鼻声でぐしゃぐしゃだった。
 俺の「男泣き」というより「マジの号泣」を見せられて流石に困惑したのか、女の子はバツが悪そうにたじろぐ。


「ふん……まぁ、こうして見ると悪くないのぅ」

 散らばった束のうち一本を手に取り、女の子が呟いた。
 未だべそをかく俺にそっと近付いて、顔を覗き込む。

「……はて、何やら甘い匂いがするが」

 そう言われてやっと、俺は二つ目の目的を思い出した。
 泥まみれのランドセルから、キャラメルを取り出す。

「これ……お前にやる」

 恐る恐る、女の子は包み紙を剥がして口に含んだ。
 不安げな顔が、瞬く間に輝かしい笑顔になる。

「…………悪くないのぅ」

 自分の顔が緩んでいることに気が付いたのか、すぐに元の顰め面に戻ってしまった。素直じゃないなぁ。



「――なんだか今年は、やけに豊作だね」
「……もしかして、ススキが効いたのかなぁ」
「ススキ?」
「ううん、何でもねぇや」

  2024/11/10【ススキ】

11/11/2024, 1:11:56 AM