まにこ

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初めて手にしたのは、親がどこからか見つけ出してきた物だった。
それはスッキリとした清涼感のあるシトラスの香りで、どこか背筋が伸びるような気がする。……気に入った。
耳の裏にほんのり付けると良い。
どこかで聞き齧った情報を頭の引き出しから引っ張り出し、一、二滴振って耳の裏に塗り込む。
今日は休日で部活だけの日。
誰かに気付いてもらいたいような、それでいて誰にも気付かれてはいけないような、少し大人になれた特別感を抱いて自転車を漕いだ。
「オッサンの匂いがする」
部室の扉を開けた先輩の開口一番がこれだった。
後々よくその香水を見るとメンズ向けだったことを知るのだが、この時の少女はまだ知らない。
耳の裏には太い血管が走っており、香水が揮発するのに非常に向いていた。要はめちゃくちゃよく香ったのである。
「ねえ、何でこんな臭うん?」
大きな声で眉を顰めた先輩がキョロキョロと辺りを見回す。
他の部員達は不思議そうに目と目を合わせている中、少女は顔を真っ赤にして俯くことしかできない。
少女はアレルギー性鼻炎で、あまり自身の鼻が利かなかったのも良くなかった。
「……あー、もしかしてそう?」
鼻の良い先輩に早々にバレてしまい、それ以上は追及されることも無く終わったのだが、この一件以降少女が香水を使うことは金輪際無かったそうな。

8/31/2024, 12:44:18 AM