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遠い日の記憶

何を見ているの?
柔らかな声はとても落ち着く。視線を声の方へ動かしながら腕を伸ばし指先は先ほどまでの視線の先へ向ける。
昔、あの海の向こうにいたような気がするから、どんな所だったかなと考えてた。
それを聞いて興味が湧いたのか、そちらをジーッと見ている。
水平線しか見えない。海の向こうって外国?
やや不満げにこちらへ視線を戻す。
外国?あぁ、そうかもしれないけど…。
けど?何それ?そんなに曖昧なんだから、小さい頃?
心地よい風が吹き、会話が少し途絶える。
ずっとここで立ったままこうやっているつもり?
喉乾いたし、立ったままで疲れるから行こう?
心地よい声だけど少し不安そうな感じがする。うなづくと手を繋ぎ、引っ張り少し先に見えるカフェへ行く。
アイスコーヒーとフルーツパフェを頼むとテラス席から海の方を見る。
また見てる!
え?ごめん。
パフェに乗っている桃を口に入れると嬉しそうに頬を緩ませる。
美味しい!やっぱり桃サイコー!
そしてスプーンをブラブラさせる。
気になるなら行けばいいじゃない?待っているから。海の向こうの外国に。
真面目な顔で見つめてくる。クリームついてるが。
行かない。いや、行けない。もうそこはないから。待たせる事もない。ほら、クリームついているから。
慌ててナプキンで口の端を拭っているが、すぐにまっすぐにこちらを見てくる。
教えて欲しい。どんな所だったのか。国がなくなるなんて考えられない。そんな哀しい記憶思い出したくない?
ちょっと、驚いた。そんな事言われるとは予想していなかった。鮮明によみがえる。遠い昔に海に沈んだ国が。

7/17/2024, 10:22:03 PM