かたいなか

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前回投稿分からの続き物。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこの法務部執行課の、ビジネスネームをツバメという男はコーヒーが大好き。

前回投稿分では、彼の大切なもの、コーヒー豆の保管庫に、収蔵部のお嬢さん・ドワーフホトが、
まさかのツバメの保管庫の、セキュリティーを全部ぜんぶ突破して、
一直線、ツバメが保管しておったところの練乳の小瓶を、手にとり熱心に調べておった映像が、
豆保管庫の防犯カメラに、残っておりました。

「随分と、真剣に調べてるメェ」
ホトさん、なんのつもりだメ?
ツバメといっしょにカメラの映像を観ておった局員、保管庫の責任者をしている通称「黒ヤギ」が、
メェメェ、首をかしげて言いました。

映像の中のドワーフホトお嬢さんは、薄暗い保管庫の中で、持ち込んだ鉱石ランタンを頼りに、
一生懸命、練乳の小瓶のイラストや、文字等々、
収集できる情報をメモ用紙に書き込んでいます。
『んぅぅ〜〜……』
映像の中のお嬢さんは、本当に目当てとしている、
「1つだけ」の、本当に欲しい1つだけの情報が、
まだ、手に入らないでいる様子。

『直接聞いた方が、早いのかなぁ〜……』

「なにを聞くメ?」
「聞く? 直接、私に?」
「ホトさん、そう言ってるメ」
「きく……」

そうか。練乳の小瓶の、販売場所か商品名だ。
ツバメは思い至りました。
ドワーフホトがランタンの光でもって、傾けたり覗き込んだりしている小瓶は、非売品でした。
とある高原の小さな牧場で、生乳の廃棄を増やさぬよう、もったいない精神で作られたものでした。

自分で使うために作ったものであって、ヒトサマに売れるような物じゃない。
産直市場に行けば、もっと美味しい練乳がある。
申し訳無さそうに言う若い牧場主に、しかしここの練乳が良いのだと、
頼み込んで押し切って、1つだけ、
やっと譲ってもらった最初の小瓶だったのでした。

自家製だから、そりゃ販売場所も商品名も、ましてや値段も成分も、書かれちゃいないのです。

「そんなに美味しい練乳メ?」
「コーヒーに少し入れるのに丁度良いのですよ」
「コーヒーに練乳入れるのメ?」
「少しです。少しだけ」

一生懸命に練乳の小瓶の、特徴やイラストをメモしておったドワーフホトは、
最終的に大きく肩を落として、小瓶を元の場所に丁寧に戻して、としてため息。
寂しそうに、保管庫から出てゆきました。

「どうするメ?」
映像を観終えた黒ヤギが、ツバメに聞きました。
「特に何も盗んでいないようですから」
サラサラサラ、練乳を貰った牧場の名前と連絡先をメモに書きながら、ツバメが答えました。
「1回なら、厳重に注意して、許します」

1回だけですよ。
ツバメは穏やかに笑って、防犯カメラの映像を、
「ん?」
閉じようとしたところ、
映像がパッと一気に明るくなって、
すなわち誰かがツバメのコーヒー保管庫の、照明を付けたようでした。
その誰かとは––

「……カラス査問官?」

ヒヒヒヒヒ。
映像の中の男性、かつてツバメの部署で主任職をして、今は出戻りで尋問官と図書館業務を兼務しているところの彼が、
イタズラな笑顔をして、カメラに向かって、
コーヒー保管庫内で
湯気たつコーヒーカップとソーサーを
スッ、 と見せつけました。

カラスがひょっこり出てきた棚には
ドチャクソに、バチクソに、メチャクチャに、
高価だったり希少だったり超高額だったり
そんな豆が100gずつパック詰めして
保管されておりました。

途端ツバメが跳ね立ちました。

「どうしたのメ!!どうしたのメェ!!」
「あンの野郎『あそこ』に手ェ出しやがって!」
「ツバメさぁぁん!!」

ブチギレたツバメが去って、
黒ヤギだけが取り残されて、
テーブルにはツバメが書いたメモがあります。
黒ヤギはただただ、ポカンとしておりましたとさ。

4/4/2026, 3:02:57 AM