冬野さざんか

Open App

 雨が好きなので、傘を差してご機嫌。人がいないことを確認して、傘をくるくる回しながらご機嫌。濡れた道路の中で、水溜りになっていないところを注意深くスキップ。パラパラと傘を雨粒が叩く軽快な音が楽しくて笑った。雨雲を透過してやってくる日差しは、夏の兆しを纏ってもなお優しい。雨の日の特権、明るいだけの夏の太陽。足元からくる爽やかで、しかし湿った空気の中を踏み進む。すると、この季節の雨が一番似合う彼ら彼女らがお目見えだ。
 ああ、この辺だとそういう気分なのね、と、訳知り顔で頷いてみてからふと笑う。美しい青。少しスモーキーで柔らかで、雨の滴を弾いて光る花々の連なり。向こうの子達は赤紫がかっていたけど、ここの子らはどこまでも青だ。
 梅雨の雨足は強まるだろう。それに負けじと花々は上向き、一層咲き誇る。まんまるかわいい花束たちは、ただそうやって誇らしげ。
 最近紫陽花が好きになったので、私は彼らに挨拶を。きっと空の雲から見たら、私のビニール傘だって、紫陽花模様に見えるだろう。

「あじさい」

6/13/2024, 11:09:47 AM