シシー

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 朝、まだ日が昇りきらない薄暗い庭は静かだ。
一つ息を吐けば白く、吸えば肺の中から体の芯まで冷えるような空気に自然と呼吸は浅くなる。
 竿についた朝露を素手ではたいて落し、倉庫の脇にある水溜めを覗いた。まだ水が凍るほどの寒さではないことに少しがっかりしつつ、水面に映る赤くなった自分の鼻先に冬の訪れを感じた。

「今年は降るかなぁ」

 海に近く特別冷え込むような土地ではないからここら辺では滅多に雪は降らない。冷たい潮風が駆け抜け薄氷を張る程度の冷え込みしかない平野に情緒も魅力も一欠片もない。
薄く色づいてきた東の空を眺めて一拍。今日も天気は良さそうだと確信して洗濯物を外へと運び出す。風こそないものの遮るもののない平野では晴れているだけで洗濯物ははやく乾くのだ。利点はそのくらい些細なもので本当に味気ないことこの上ない。

 昔、珍しく大雪になって弟妹たちとともにはしゃぎまわったのが懐かしい。ソリを引くのは私で弟妹たちはただ乗っているだけで偉そうにあっちへこっちへと指示を出してふんぞり返っていた。それに腹を立ててちょっとした復讐として木下に差し掛かったとき木の枝を叩いて弟妹たちに雪を落としたのだ。妹は泣きながら家の中へ駆け込み、弟は呆然としたあと楽しそうに笑い転げていた。
その後叱られはしなかったけど、妹には恨まれたし弟にはおやつをわけてもらえた。なんだか釈然としなかったけれど楽しかったのは覚えている。
 だから、毎年息が白くなる度期待してしまう。
楽しかったあの時をもう一度、いや何度でもいい。

 叶わない夢を、降らない雪を待っているの。


                【題:雪を待つ】

12/15/2023, 10:30:59 AM