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『もっと知りたい』

​「ねえ、私のどこが好き?」

​隣で本を読んでいた彼は、栞を挟んで視線を上げた。

「全部だよ」
「嘘。全部なんてありえない。もっと具体的に、私の知らない私を教えて」

​彼女の瞳は好奇心というより、底なしの渇望に揺れていた。彼は少し困ったように笑い、彼女の指先に触れた。

「君が夢の中で、僕の名を呼ぶとき。自分では気づかないだろうけど、少しだけ鼻に皺が寄るんだ。その瞬間の、無防備な姿が愛おしい」

​彼女は満足そうに目を細めた。しかし、数秒後にはまた別の問いが生まれていた。彼の思考の深淵、昨日見た夢の色彩、幼い頃に忘れたはずの痛み。

​「もっと、もっと知りたいの」

​彼女の手が彼の胸元に伸びる。知ることは、所有することだ。彼のすべてを解体して、情報の破片に変え、自分の血肉にしたい。

​「……じゃあ、次は僕の番だ」

​彼が囁き、彼女の耳元に唇を寄せた。

「君がそうやって僕を暴こうとするたびに、僕の中で何が壊れていくか。君はまだ、知らないだろう?」

​彼女の背筋に、甘美な戦慄が走った。
知らなければならないことが、まだ山ほどあった。

3/12/2026, 11:08:41 AM