アスパラ・マラソン4世

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     秋の訪れ

家を出れば金木犀の香りが漂う10月。
周りは体育祭だ、文化祭だととても忙しそうだが、とても人生を謳歌しているような顔だった。

行事ごとをあまり好まない私にとってはなにも変わりない日常だった。

この日も図書室で本を読んでいた。
小さい頃から本が好きでかなりの数読んできたが、この学校の本は読んだことない物も多かった。

そんなとき、隣に誰か座ってきた。
沢山席がある中で「隣に?」と思ったが口にはしなかった。
でも隣の男は口を開き「その本、面白いすか?」と聞いてきた。
私がかすかに頷くと、「そうなんすね!こっちの本も面白いっすよ!」なんて彼の持ってる本を見ると「桃太郎」と書いてあった。

「桃太郎?」
「俺憧れてんすよ!」

数年ぶりに見た桃太郎がなぜだか愛らしく見えた。
きっと疲れているのだろう。

続けて彼が話し始めた。
「お姉さん、名前○○っすよね?」
「え、なんで知って、」
「俺一応図書委員なんで!ちゃんと俺のことも覚えといてくださいよ〜」
こんな、陽気な人が図書委員なんてきっと余り物だったんだろうと思った。

「俺、○○さんに一目惚れして図書委員選んだんすよ〜」

と、急に恥ずかしげもなく言った。
私が返事に困っている時

「でもすぐに付き合おうなんて思ってないっすよ、ちゃんと堕とすっす」

なんて、さっきとは違う真剣な顔付きだった。


図書室の微かに空いている窓からは金木犀の香り。

金木犀の香りと共に変わりない日常は風に流された。

10/1/2025, 2:48:00 PM