『あじさい』
仕事が休みの平日のお昼前、久しぶりにハンバーガーショップに来た。少しお腹がすいていたのて、チーズバーガーとブレンドコーヒーを注文した。
ここのコーヒーが大好きだ。ふとコーヒーを飲むようになったのはいつだろうと思った。はっきりしないが、二十歳は過ぎていた。当時、家では飲んでいなかった。その頃、私は看護専門学校に通っていたのだが、授業と病院実習の忙しさに加えて、家族間での揉め事もあって常にイライラしていた。そうした自分へのご褒美と称して、週に1回程度、学校の近くにできたばかりのチェーン店のハンバーガーショップに行った。
学校が休みの日の、比較的空いている午後、1人でハンバーガーとブレンドコーヒーを注文し、たばこを1本吸っていた。当時は店内の喫煙は制限されていなかった。
コーヒーとたばこは、イライラを解消するために始めたものだった。どれくらいの期間続いたか覚えていないが、1日1本と決めて吸っていたたばこは、いつの間にか止めていた。
そのうち就職するにあたり家を出てから、仕事と初めての1人暮らしで余裕がなく疲労のほうが強くなり、イライラはなくなった。
ここのコーヒーは味が濃い。「深煎り」という言葉を知ったのはコーヒーを飲むようになって、何年も経ってからだ。ここのコーヒーは深煎りなのかもしれない。
座った窓際の席から、植え込みのあじさいが目にとまる。濃い紫色とピンク色が鮮やかに咲いている。家に咲いていたあじさいは、とても色が薄い水色と緑色で、ひとつひとつの花びらが小さかった。私は、そのあじさいをきれいだと思ったことがなかった。
濃いコーヒーを飲みながら、濃く鮮やかに咲くあじさいを見て、意外な共通点を発見した私は、久しぶりに家に帰ってみようかなと思った。
6/14/2024, 9:38:16 AM