いろ

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【落ちていく】

 客引きたちのやかましい声。けばけばしい蛍光色のネオンの明かり。歓楽街の喧騒にもいつしかすっかりと慣れてしまった。
 ボロアパートの一階の角部屋が、今の僕たちの棲家だ。生まれ育った古くさい因習に雁字搦めになった村を君と二人、手を取り合って逃げるように飛び出して。そうして流れ着いたのがこの街だった。
「ただいま」
 小声で呼びかければ、君の健やかな寝息が聞こえる。起こさないように足音を殺して畳へと上がり、薄いせんべい布団にくるまった君の横に膝をついた。
 あの村にいれば村長の子供と土建屋の社長の子供として、僕たちは不自由なく成長することができただろう。だけどあの頃の僕たちはそんな未来を望まなかった。
 生活費を稼ぐために犯罪スレスレの仕事に手を出す今の生活は、確かに心身を疲弊させていく。まるで底なし沼にどこまでも落ちていくように。それでも閉鎖された村で飼い殺されるよりはずっとずっとマシだった。
(君と二人なら、どこまで落ちたって構わない)
 確かな決意を胸に、眠る君の頬へそっと口付けた。

11/23/2023, 9:27:56 PM