燕子花

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旅路の果てに
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 そういえば……
 このあいだ、面白い願い事をされたの。
 走馬灯を見てみたいって。
 その人、わがままでね?
 走馬灯は見たいけど死にたいわけじゃないから、絶対に死なず、後遺症も残らない魔法薬にしてくれ、って。
 良い機会だから、試作した即死効果のある魔法薬、使ってもらおうと思ったのに。
 嫌がられちゃった。
 別に私たち、死んだって拠点に戻るだけなのにね。
 ……というか後遺症ってなぁに? 失礼じゃない?
 私、あとに残るような効果のある魔法薬、売ったことないんだけど。
 ……色がよくなかったのかなぁ。紫はだめかぁ。

 それでね。
 その走馬灯が見られる魔法薬、試作してみたの。
 これなんだけど──
 あらあら。
 逃げられないのはわかっているでしょう、お客さん。
 うちの暖簾(のれん)をくぐったからには、なにか置いていってもらわないとねぇ。
 【魔法薬専門店 置いてけ堀】は、そういうお店だもの。
 差し出せるアイテムもゼニーもないなら、別のものを代わりに頂きますよ。
 って、表の看板に書いてあったはずだけど。
 あはは、怖くない怖くない。
 お口をあけてー。
 はい、あーん。

 …………よしよし、状態異常"睡眠"を確認っと。
 ここまでは想定通りかな。
 あとは起きてからのお楽しみね。

 それにしても。
 旅路の果てになにがあるのかを知るために、走馬灯を見てみたい。
 だなんて、ずいぶん変わったお客さんだったな。
 ゲームからログアウトできなくなってから変な人が増えたけど、あの人もそうだったのかなぁ。

 ──あ。
 いらっしゃい。
 どうぞこちらへ……ああ、この人?
 寝ているだけなので、お構い無く。
 ……ふふ。
 どうやらあちこちで、うちの店の悪口を言っていたらしくて。
 鬱陶しいし、そろそろどうにかしないとなぁと思っていたのだけれど。
 まさか、わざわざここまで悪口を言いにやって来てくれるとはねぇ。

 ところで、お客さんも試してみる?
 なにをって……これ。
 走馬灯が見られる魔法薬。
 あ、いらない?

 ……そう、それは残念。

1/31/2024, 6:58:21 PM