『はなればなれ』
「私と、別れてほしいの」
突然、彼女から言われたのは、別れの言葉だった。僕の心が、青に染まっていく。
「えっ、待って。どうして……どういう事なの?」
「……好きな人ができたの」
泣きじゃくりながら、彼女は言う。しかも、僕という恋人がいながら、その人と浮気していたという。
「そんな……僕よりも、好きな人が……?」
「ごめんなさい……もう、あなたと付き合えないの……」
涙をぽろぽろとこぼして、彼女は何度も謝る。そして、「さよなら」と一方的に言って、僕の元を去っていった。
――嫌だ。
離れ離れになるなんて、そんなの嫌だ。ずっとずっと、彼女と一緒にいたいのに。僕と彼女は、強い運命で繋がっているんだ。運命から逃れられるわけがない。
――君には、僕しかいないんだよ?
「いやああぁあぁあああぁ……!」
――なっ、何? 一体、何が起きてるの? 私の目の前で、大切な恋人が赤くて気持ち悪い塊になってしまって。顔も、腕も、脚も、どれも、恋人じゃなくなってしまったみたいで。分からない。頭がぐちゃぐちゃになってしまって、何にも記憶されない。
「大丈夫だよ」
塊の前に立つ男が、赤黒く染まった斧を持って、私に声をかけてくる。顔と服に返り血を浴びており、早々に逃げてしまいたかった。でも、目の前で恋人が赤い塊にされた恐怖で、声が出ない。身体も動かない。
「君の事は、僕が守ってあげる」
のそのそと、男が近づいてくる。その顔を見て、私は絶望の底に落ちた。彼は、かなり前に好きだと告白されて、恋人がいるからと断ったら、次の日からストーカーをしてきた男だ。
「こんな男と【浮気】した事、許してあげるから」
どうやら彼は私と付き合っている妄想をしているらしく、運悪く会った時は「僕達は運命で繋がってるんだよ」とか「結婚式はいつにしよっか」とか、気持ち悪い彼氏ヅラをしてくる。
「だから、一緒にいよう?」
「い、いや……!」
「安心してよ。君に近づこうとする奴は、僕がやっつけたんだから」
――ハナレバナレニナンテ、サセナイヨ。
11/16/2024, 1:38:33 PM