"子猫"
「みゃー」
「はぁー…」
しゃがみながら、しきりに擦り寄る子猫にため息を吐く。
三十分くらい前の事。閉院時間になり、正面玄関の扉を閉めようと白衣のポケットから鍵を取り出すと扉の外から微かな動物の鳴き声のようなものが聞こえた。外に出てみると、扉の横の壁際に一匹の小さな子猫が元気よく鳴いていた。白に黒いブチ柄の子猫。俺の姿を見るやいなや足元にやってきて、すりすりと擦り寄ってきた。
それからずっとゴロゴロと喉を鳴らしながら俺の足に、しゃがむと腰にまですりすりと頬を擦り付けてきて、軽く拘束されて困っている。
──どうすっかな……。
いまだに擦り寄ってくる子猫を見ながら考える。
──寒くなってきたし、このまま野放しは……。けど、うち病院だし……。
ひょい、と両手で持ち上げる。
「みゃー」
へその緒は付いていない。一先ず緊急で動物病院に連れて行く必要は無さそう。
「みゃー!」
「うおっ」
急に一際大きな声で鳴いてきて、目を見開いて驚きの声を上げる。
──こんなに元気なら、里親すぐ見つかるだろう。里親見つかるまでの少しの間だけ、居室で面倒見るか。
立ち上がって子猫を胸に抱く。
「みゃー」
──……ふわふわ…。
小さくて柔らかくて、暖かな感触が伝わってくる。
──小さな命が、俺の手の上に…。
すると、胸をよじ登って喉を鳴らしながら頬に擦り寄ってきた。
「うおぉっ。ちょ、やめろ落ちるぞ…」
急に、ビュウ…、と風が吹いてきて、少し身震いする。
──そろそろ中に入って鍵閉めないと…。
扉を開けて中に入り、ポケットから再度鍵を取り出して扉の鍵を今度こそ閉める。
「みゃーあー」
身を翻して居室に向かおうとすると、今度は甘えた声で鳴いて口元を、ざらざらとした舌でぺろぺろと舐めてきた。
「うおぉ…や、やめろぉ、くすぐってぇ…」
子猫相手に無駄だと思うが、不満げな声色で抗議する。やはり、全くやめる気がしない。
「あーもう…。やーめーろぉーっ!」
11/15/2023, 2:04:54 PM