子ども達がバタバタと帰り支度を始めている。
この後どこに遊びに行くか話している者、部活に行く準備をしている者、等々解放感に満ち満ちているこの時間が実は好きだ。
そんな賑やかな声を聞きながら、俺は自分の部屋と化している準備室へと歩を進める。
インスタント珈琲をお気に入りのマグカップに注ぎ、ホッとひと息をつく。
さあ飲もうと口をつけた瞬間、遠慮がちにノック音。
折角良い時間を過ごしていたのに……とほんの少し残念な気持ちを誤魔化すように扉を開けに行く。
「……来ました」
何とも間の悪いタイミングでやって来たのはここ最近足繁くやって来る一人の男子生徒、田中。俯いているためその顔は見えないが、滲み出る緊張と興奮を隠しきれてはいない。
「……入れ」
溜息をつきつつ、俺は田中を部屋に招き入れる。普通ならば。生徒が放課後やって来るということは何か授業で分からないことを聞きに来るのが常であろう。
しかしこの生徒の目的は明確に違う。部屋に入った瞬間、後ろ手で鍵をかけたのだ。
「先生……」
ゆらり顔を上げた田中は鼻息が荒い。理由は簡単、今から行われるこの行為を既に熟知しているからだ。
「僕、この時間が待ち遠しくて待ち遠しくて」
田中に腕を引っ張られ、来客用のソファーに沈められる身体。嗚呼、逃げ出したい。こうなった経緯を思い出すだけで吐き気がする。
前言撤回、放課後なんて大嫌いだ。
10/12/2024, 9:41:49 PM