NoName

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声が聞こえる。
泡沫が上っていく、水底。
水面はゆらゆらと揺れて、美しい。
それは、どこか世を儚んだ、少女の心の声と、呼応していた。
耳朶に入るのは、あの人の声。
私は、あなたの声を聞くまで、生きたい。
転生して得た二度目の生でも、やはり私は不幸なのか。
こうして、溺れて死んでいってしまうのか。
ざぶん。
水面が際立つ。
激しい水音と、伸ばされる手。
そう、その褐色のあなたは、赤い眼をしていた。
「なにやってんだよ。こんなところで」
口はこう、形作っていた。
馬鹿じゃないのか?
と。
でも、その優しさ、と理解していいだろうか。
彼の優しさが、それを口に出さなかったのかもしれない。
彼は私の背中に大きな布をかけてくれ、また、さすってくれた。
咳き込むと、肺の中の水が、吐き出された。
「良かった。ひとまずは身体を温めないとな」
そう言って、器用に火打石で、火を起こす。
なんだか、その火を見ていると、涙が溢れてきた。
「私、死ななくて……よかったんだ……。ありがとう。セルべ」
「何言ってんだよ。人が死んで喜ぶ奴があるか」

9/22/2023, 10:26:47 AM