茶々

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 体温が海に溶け、意識も段々と薄れていく。月明かりに飲まれていく泡がとても綺麗で、凍えるような寒さも苦しさもどうでも良かった。これで彼らと同じ場所に行けるのなら、尚更だ。
 ふと、沈むだけだった体と意識が横に流され始め、在りし日が蘇る。あぁ、これはまだあの子-虹介(こうすけ)が7歳の時のものだ。
 「ねぇ青にい、いなくならないでね」
 そう、泣きそうな顔で言った。泣き虫さんなのは相変わらずだなぁ。僕の容体について話したのはもう少し先だったけれど、この時点で彼なりに察していたのだろう。
 「大丈夫、まだいなくならないよ」
 「また、まだって言った」
 まだ、時間はある。その間に思い出を作れば、きっと後悔はない。そう思って、そう信じて今日まで生きてきた。けれど…
 僕もまだ、もっと普通に、生きていたかった。
 やっと出た本音は空に届くことなく、水の音にかき消された。

お題:『水の音と本音』

5/31/2024, 10:14:04 AM