黒猫

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《終わらない夏》
「暑いなぁ、ハル」
「大丈夫だぜ、また化け物が来ても俺が守ってやっからよ」
1人の長身で金髪の長い髪を緩く束ねた人の良さげな男が、1人の男を背負って声を掛けながら歩いている。
ポタリッポタリッ
何かの液体が滴る音がして、何処からか腐った臭いが鼻を掠めた。
背負っている男の目は、濁っていて一目で正常ではないとわかった。



警察署で、1人の男が取り調べを受けている。
その男は、背中に背負っている死体を、まだ生きているかのように扱っていた。
その男から死体を取り上げようとすると、暴れに暴れて
取り押さえるのに苦労した。
「ハル、ハル、約束したんだ、次にあの化け物が襲ってきても、助けてやるって」
そう、意味のわからないものを延々と呟き、死体の名を呼び、探し続けるその様子をみて、警察は精神鑑定を依頼した。
そして、取り調べを続けること数日。
急に正気に戻ったような真っ青な顔をして、聞くに絶えない絶叫をした。
「あぁぁぁぁぁ」
その声は、署全体に響いた。
「はる」
「はるは死んだ、俺のせいだ、俺がちゃんとしてたら、はるは死ななかったかもしれないのに」
ブツブツとわけも分からないことを延々と呟き続ける。
「はるは俺がころしたんだ」
運の悪いことに、その呟きだけが、刑事の耳に届いた。
結果、自白したと処理された。
ただ、その死体に残る、その死体の内蔵を半分抉りとったような、その大きな爪のような凶器が解明できない謎として残っている。
その男は、証拠不十分で不起訴となった。



その男が精神病院に入院しているときに、見知らぬ2人の青年が訪ねてきた。
その2人は、真剣な顔で男にこう尋ねた。
「何か、この世のものとは思えないような、冒涜的な何かを見ませんでしたか」


その夏は、繰り返される。
冒涜的で混沌としたなにか人智を超えた存在によって。
いつまでも、いつまでも。

8/18/2025, 7:44:25 AM