とある恋人たちの日常。

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 今日の仕事はとても疲れた。
 
 家に帰って恋人に癒してもらったけれど、身体はそうはいかなかった。
 俺は何故か暗闇の中で手を動かそうとしたけれど、重苦しくて動かせない。
 
 なんだろう。
 ここは……どこなんだろう。
 身体も上手く動かせないし、泥沼の中に沈んでいるみたいだ。かき分けても身体は重くなるばかりで……。
 もがいてももがいても暗闇に飲まれていく。
 
 ぱしんっと手を握られたと思ったら、身体を引き上げられたような感覚になった。
 
「大丈夫ですか!?」
 
 明確に俺を心配する声が耳に入り、光が差し込んで恋人の顔が視界いっぱいに広がる。
 不安そうな表情が俺をとらえて……安心したように笑顔になってから俺を抱きしめてくれた。
 
 暖かな体温に安心して俺も抱きしめ返す。
 
「大丈夫ですか?」
「……うん」
「うなされてました」
「……そう、かも」
 
 彼女は身体を離してから、再び柔らかいほほ笑みを俺に向けてくれた。
 
 俺は手を伸ばして彼女の頬に手を触れる。彼女は俺の手に自分の手を重ねて擦り寄せてくれた。
 愛おしい人の感触が手に広がって、俺の心に穏やかな光が灯る。
 
「起こしてくれて、ありがとう」
 
 それだけ伝えて、もう一度彼女を抱きしめた。
 
 
 
おわり
 
 
 
三六四、光輝け、暗闇で

5/15/2025, 1:21:33 PM