ほろ

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「新年新年って言うけどさ、ぶっちゃけ年明けって実感ある?」
ソファーに寝転がり、スマホを片手で操作する同居人が、突然そんなことを言い出した。
僕は明日の雑煮の準備をする手を止めて、んー、と唸る。
「ないかな」
「だよね! 結局、いつも通り日付が変わるだけじゃん? それなのに、新しい年になったって、人類がみんな認識してるの怖くない?」
「一種の洗脳みたいな?」
「そうそれ! さすが分かってる!」
ぐるんと仰向けになって、スマホを持っていない手で親指を立てる。そりゃあ、十年も一緒に住んでいれば、ある程度言いたいことは分かるってものだ。僕も親指を立てて、笑ってみせる。
「だから、元日を迎えても私はあの言葉、言わないから! 洗脳には屈しないぞ!」
「どうぞご自由に」
テレビではもう年末番組の司会者がカウントダウンを始めている。
3、2、1……クラッカーが鳴り、画面がキラキラのテープで埋まる。「あけましておめでとうございます!」と司会者が歯を見せて笑った。
僕は同居人に近付く。
「あけましておめでとう。今年もよろしく」
同居人はスマホから僕へ視線を移した。
「うん、あけおめー。よろしく…………ってああ! 言っちゃった!」
「ははっ、見事に洗脳に負けたね」
「くそー……わざとでしょ!」
「さあ?」
来年こそはっ、と頬をふくらませる同居人。
実は毎年似たようなやり取りをしていて、毎年洗脳に屈しているのだと、そろそろ教えてあげた方が良いのだろうか。

1/1/2024, 1:15:52 PM