☓☓☓☓年☓月☓日(月)晴れ
彼は今日も寝癖が付いていた。友だちに指摘されて、照れているのが可愛かった。
今日の体育は不調だった。楽しみにしていたのに…
☓☓☓☓年☓月☓日(金)くもり
彼と電車で会う。1番端のホームで、いつも同じ友だちも居るのに、今日は一人だった。
午後の数学はダメ。先生の声が子守唄みたい。
数式を見てると眠くなる。
☓☓☓☓年☓月☓日(水)雨
学校の玄関で、彼と会う。傘を差してるのに、びしょ濡れ。
濡れてる姿も、カッコイイ!
今日はお母さんと喧嘩した。お母さんは、いつもイライラしてる。全部私のせいにしてくる。
確かに、私も言い過ぎたけれど…
「うわぁ…何これ」
荷物の整理を手伝ってくれていたタツヤが、恐ろしいものを見たような声を出した。
「んー?何…って、それ!?私の日記帳!?やだっ!その段ボールはいいから!!」
私は慌てて日記帳を取り返そうとする。タツヤはひらりと日記を引くと、慌ててつまづいた私を受け止めた。
「何してるんだよ…」
「こっちのセリフ!勝手に読まないでよ!」
「日記だって知らなかったんだから、仕方ないだろ〜」
「…この彼って誰?俺の知ってるやつ?ちょっとストーカーぽいぞ。この日記…」
「ガッツリ読んでるじゃん!!やだ!やめてよ」
タツヤは、半泣きで抗議する私を優しく抱きしめて、おでこにキスをくれた。
「今日のことも日記に書くの?なんて書くの?」
タツヤは不敵な笑みを浮かべる。私はカァっと頬が熱くなるのを感じた。
「この彼とはどうなるの?俺と出逢う前の日記だよね?」
「う…」
その彼はあなたのことですよ。とは言えずに、言葉に詰まった私をじっと見つめてくる。
しばらくお互い黙ったまま、お互い様子を伺っていたけど、タツヤは私の頭を撫でた。
「困らせてごめん。同棲前日にこんな日記見ちゃうとわなぁ…妬ける」
大学1年のタツヤと高校3年生の私は、あるきっかけから顔見知りになり、喋るようになり、連絡先を交換するようになり…お付き合いが順調に進み、明日から結婚を前提に同棲を始める。最も、私はもっとずっと前からタツヤのことを知っていて、片想いをしていたのだけれど。
日記に書き、それを残していた黒歴史とも言える、私の日記帳を彼に見られてしまうとは。
「大丈夫だよ。私の頭の中はタツヤが想像してるより、ずっとあなたでいっぱいだよ」
「…なんか、照れるより先にさっきのストーカーぽい日記を思い出した…怖え…」
タツヤはそう言って声を出して笑った。
「うん、私も。なんか客観的に見えてきて、自分がちょっとだめな気がしてきた…確かに怖いね」
これからは日記には、当たり障りのないことを書こうと思った。
8/26/2023, 3:44:42 PM