家を飛び出し、走り続けること数十分。もう足は動かない。歩くことすら辛い。
ひゅー、ひゅー、と虚しい呼吸を漏らしながら何とか前に進んでいく。これまでずっと、耐えていた。こんな鳥籠に囚われているのは嫌だ。何がここなら安全。だ。自由なんて有りやしない。左手で額の汗を拭い、雑多に着てきてしまった白地のパーカーをぴん、と正す。キャップを深く被り、公園の横を急いで横切る。子供たちの声が大好きだったが今は煩わしい。
長く息を吐き出し、前を見やる。目の前には大きな海が広がっている。もうこんな所まで来ていた。あの場所から出たことは無かったから無闇やたらに走ってしまった。体力がもう……
後ろから怒号が聞こえる。走ってくる音が耳を劈く。まずい、マズイ…追いつかれる。
前は海、断崖絶壁。後ろからは逃げてきた壁が迫る。
……これまでずっと…ずっと、ずっと、耐えてきたものから開放されたというのに。
深呼吸をし、奴らを振り返る。
『__様!どこに行かれるのですか!』
煩い。
『早く戻りましょう!旦那様が心配なさいます!』
五月蝿い。
『__様!』
チッ、と小さく舌打ちをする。目の前の黒ずくめの使用人は目を丸くし、口が止まった
「……俺は…ずっと耐えてきた。これまでずっと。
もう、干渉するな」
はっきりと口にし、瞬きをする。使用人はなりません!そう口にしたんだろう。もう、分からない。
海を背景に…いや。違う、海と踊るのた。舞うのだ。
崖を蹴り、背中から風をきって落ちていく。嗚呼…心地よい。耳に障る声はもう聞こえない。
聞こえるのは自身の呼吸、心拍、そして…死の音。
もう、逃げなくていいんだよ
もう、囚われなくていいんだよ
___ごめんね、にいちゃん。いま、そっちにいk……
_________
『…ごめんね。__。ごめん…"また"救えなかった……今度は…にいちゃんが…護るから…
愛おしい_。にいちゃんの側にいて。』
7/12/2023, 1:55:31 PM