オツワイ

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【スノー】

 雪を鬱陶しいと感じるようになったのは、いつからだろう。

 玄関を開けると、一面に雪景色が広がっていた。
 昨日結構降ってたもんなぁ。布団から出た時も寒かったし、そういうことだろうとは思っていたが。
 それにしても結構積もってる。足を滑らせないように、鉄製の階段を丁寧に降りる。足跡の上を歩けばいくらかマシだろう。
 こうも積もっていると憂鬱だ。歩くだけで大変なのに、運転とか。本当ついていない。一応中止を提案したが、まだ既読は付いていなかった。まぁハナから期待はしていなかった。アイツは既読遅いし。
 己の運の悪さを恨もう。


___

 「いやぁ!積もったなぁ!」
 「積もった!積もった!」
 「ガキと反応同じじゃねぇか」
 雪道を走っていた。
 そこそこに気を張らせて運転する俺の後ろで、男子2人は無邪気なものだった。若干一名、男子というには年齢を重ねすぎているが、そこはそれ。こいつはそういう奴なのだ。

 「ガキとかいうなよ〜! たっくんが覚えたらどうするんだ!」
 「……まさかお前に子供がいるとは思わなかったよ。隠し子か?」
 「さっきも言ったろ〜。姉ちゃんが帰ってきてんだよ。雪遊びするなら連れてけって、強引だよな〜。ホント、誰に似たんだか」
 「……」
 お前も似たようなものだぞ、と言おうとしたがやめた。面倒だし鬱陶しくはあるが、そういう一面に救われている時もある。
 現にこいつがいないと、俺は一生引きこもってただろうし。

 「にしても、雪ではしゃぐとか呑気なもんだな。お前もそろそろ免許くらい取ればどうだ? そしたら俺の憂鬱も理解できるだろ」
 「別に運転する必要ないしな〜」
 「会社近いもんな」
 「そそ、遊ぶときはお前が車出してくれるし」
 「……」
 「感謝してるって! なんか奢ろうか?」

 俺の不満を感じ取ったのか、咲田はらしくなく気遣ってきた。背もたれがほんの少し揺れる。バックミラーには、体を乗り出して俺の椅子に体重を預ける咲田が映っていた。

 「いや、いい。それよりちゃんと座れ。危ないだろ」
 「りょーちゃんのいけずー」
 「誰だよ……」
 疲れてきた。これから遊ぶっていうのにもう帰りたい。少年はよくこんな空気に耐えられるものだな。まぁ、一面の雪景色に浮かれているのだろう。さっき見た時も、顔が伸びるくらい見てたし。

 チラリと外を見る。一面の雪景色だ。
 特にそれ以外言うべきことはない。何もかもが白く覆われていて、殺風景だ。

 「雪ってさ〜!」
 くだらない思考は、少年の言葉で遮られた。

 「英語でなんていうか知ってる?」
 くだらない話題だった。もちろん知ってる、と答えようとして先に咲田が答えた。
 「知らないな〜! たくみは知ってるのか?」
 「うん! ちゃんと勉強してるからね!」

 たくみと呼ばれた少年は、誇らしげに胸を張った。
 本当、可愛らしい。そんな簡単なことでこうにまで自信を持てるんだから。
 俺にもこういう時期があったのだろうか。

 「教えてくれるか?」
 咲田はそんな少年に対して、未だ無知なふりを続けていた。本当馬鹿馬鹿しい。
 馬鹿馬鹿しい、とは思うが、こういうところがこいつが好かれる理由なんだろうなと思う。

 「ふっふっふ、仕方ないな〜!雪はね、英語で、スノーって言うんだよ!」
 「えー!まじかー!!」
 咲田は両手をあげて、大袈裟に驚いてみせた。その反応を気に入ったのか、少年は何度もスノーと連呼する。

 馬鹿馬鹿しい。馬鹿馬鹿しいが、少し羨ましく感じた。雪とか、英語とか、そんなことで舞い上がれる人生、ずっと楽しいだろうな。



 えー!まじかー!!

 それからしばらく、咲田の声が車内に響いていた。



【あとがき】
 最近、文章が好きになり個人的に目をつけている方がいます。俯瞰して僕の作品と比べると、人数の差(僕は1人がメイン。その人は2人がメイン)や、テーマの単語をそのまま文章に登場させる点で違いがあると思いました。
 当然、こんなことをしているのですから、僕は文章が上手くなりたいわけです。少しずつでもいいから技術を盗もうと思い、今回は人数を増やし、スノーという単語も登場させました。
 正直もっと色々できたな、と思っています。主人公が人生を楽しんでいなかったり、主人公の友達(咲田)が子供らしい感性を持っていたり、もう少し雪にフォーカスを当てれただろうなぁと。

 まぁ、地道にやっていくもんです。文章なんて突然上手く揉んでもないですから。

12/13/2025, 8:42:50 AM