僕は、大の大人が、
それも自分の父親が涙を流すのを初めて見た。
夜中、トイレに僕が起きたとき、
何やらリビングの電気が付いていることに気づいた。
ドア越しに父の影が見えたから、ドアを開けようとして、
開ける手が止まった。
微かに、すすり泣く声が聞こえてきたからだ。
ちょっとだけドアをそーっと開けた。
隙間から覗き見ると、
酒の入ったコップと、空になった容器がある机。
そして、涙を流す父さんがいた。
僕はかなり動揺して、呆然としていた。
どうすればいいかわからなかった。
声を掛けようとして、不器用なこともあって、言葉が見つからず、声をかける勇気も無く、そのまま静かに自室に戻った。
ベッドに横わたるけど、眠れない。
さっき見た父さんの姿が脳裏にあった。
意味もなく天井を見つめているうちに、
気付けば、眠っていた。
「おう、おはよう」
僕は安心した。
いつもの父さんで、いつもの下手くそな笑顔だったから。
もしかすると、昨日のは寝ぼけて見た夢だったのかもしれない。
ただ、昨日覗き見た時に机にあった酒の容器は、
記憶の通りのもので、ゴミ箱の中に乱雑に入っていた。
そんな心の内に閉まっていた昔の話を、
ついに父さんに話した。
一緒に酒を飲んでいると、懐かしい話になったのだ。
でも、父さんは教えてくれなかった。
あれは夢ではなく現実だったのか。
何で泣いていたのか。
そして、声を掛けれなくてごめんと謝ったけれど、
誤魔化すように笑ったあと、
別の話をし始めて、僕の疑問は流れて行った。
多分、見せたくない涙だったんだよね。
今もあの時の真相は知らないけど、
弱さを見せないところが、やっぱり、
父さんらしいや。
10/10/2024, 11:42:43 AM