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 家のドアの前で、鍵を出そうとする。ん? バックの定位置にない。あっと思う。訪ねた友人の家で、バックを落としたのを思い出した。その時、どこかへ転がったのかもしれない。友人は、泊まりがけで出かけるって言っていたから、もういないだろう。

 そうだ、大家さんだ。一階の大家さんのところへ行き、ドアのベルを鳴らす。あれ? いない? 部屋の灯りはついている。ちょっと出掛けただけだろうか。

 とりあえず、郵便受けがある横の棚に座って待つことにした。もし、大家さんが帰ってこなかったらどうしよう。どこかで泊まる? 悶々と考えていた。外から風が冷たく吹き込んでくる。

 すると、塀の隙間から見慣れた上着がちらっと見えた。助かった! 「あれ、どうしたの?」。小さな袋をぶら下げた大家さんの姿を見ると、全身の力が抜ける気がした。


「たった一つの希望」

3/3/2026, 6:25:18 AM