題名 『子供達の、一年後を繋ぐ僕。』
教卓の前に一人。"未来人"が居た。
朝、起きると一年前に戻っていたのだ。
一年前、そう激しい世界戦争が繰り広げられている時。
戦闘機も、爆弾も見慣れていて食料も無い。
国民は苦しい生活を強いられていた。
そんな一年前に戻って来たのだ。
元々俺は身体が弱く、軍隊には入れない。
だから、小学校の先生を辞める事も無く周りの男性が戦争に行く中、教師の役割を全うしていた。
日中や、日露、WW2の時代よりも何でも出来る様になったこの時代。
無惨な事も、悲惨な事も、惨い事も、簡単になった。
人間を忘れたんだ。
世界の大切な"平和"。
"No war"を忘れてしまったんだ。
取り敢えず、一年前を思い出してあの小学校へ行く。
『せんせぇ~、おはようございます、!!』
そんな、子供達の声が聴こえた。
涙を抑えて、『嗚呼、おはよう。』と震える声で話した。皆、体が細く、髪のボサボサ。服はツギハギだらけで、目も死んでいる。
それでも、明るく挨拶をする生徒に何故か涙が出そうになった。
この子達には、話しても良いだろうか。
桜の花弁が舞わない、花の便りが来ない春の風に打たれて想う。俺は咳払いをした。
『皆、聞いてくれ。実は先生──────、』
『一年後から、来たんだ。』
生徒達は口をぽかんと開けて、『何言ってんだ、』という顔をした。でも、俺があまりにも真面目に話すものだから生徒は真剣に聴いてくれた。
『先生、じゃあ、一年後はW杯やってますか、?』
とある、丸坊主がそう言った。
俺は、息を飲んでから、
『嗚呼、やってるぞ。』
『じゃあさ、!じゃあさ、!一年後は──────、』
沢山生徒から質問が飛んでくる。
その、質問に淡々と答えた。
『あの…、』
そう良い立ち上がったのは、お下げの三つ編みに眼鏡を掛けている佐藤だった。
『この戦争は一年後には終わりますか…、?』
彼女の質問に、じっと固まった。
希望の無い目。死んだ目。油性マジックで塗り潰した様に真っ黒な目。
『嗚呼、終わってる。』
そう言うと、生徒達は人が変わった様に目を輝かせた。
『御飯は、!?』
『沢山食べられるぞ、パンとか、アイスとか、な、?』
『御洒落出来る、!?』
『嗚呼、帽子の御店が沢山作られる。』
『御洋服は、!?』
『そうだな~、御洒落なのが沢山有ったぞ、』
彼等の目は輝いていた。まるで、出会った時の様に。
俺はまた、咳払いをして真剣な眼差しを皆に向けた。
『先生から一つ御願いが有る。』
息を飲んでから、口を開いた。
『もし、敵国の軍が攻めて来て"白旗を上げて、教室から出て来い"と言ったら、必ず白旗を持って敵国の軍に従うんだ。良いな、?』
『え、でも、駄目って軍隊さんが────、』
『必ずだ。その時は国の言う事を忘れろ。忘れるんだ。絶対に。』
生徒には『嘘は付くな。』と言っていたのに、こんな嘘を付くなんて悪い教師だ。
一年後、W杯が開かれる事も、御飯が沢山食べられる訳でも無い。
唯、今は彼等に"生きる意味"を持たせたい。
あの時、誰かがこう言った。
『どうせ、ずっとこの生活なんだ、!!!この生活が続く位ならッ…、殺されようッ…、!!!』
その瞬間、爆発音が鳴り響いた。
俺が意識を取り戻した頃には、生徒達は皆体がバラバラで教室が血まみれになっていた。
生きる意味。
一年後、この生活が終わると思えば生きたいと思えるだろう。頼む、子供達を救ってくれ。
一年後の世界で、生きてくれ。
2023.6.24 【1年後】
6/24/2023, 12:06:53 PM