はた織

Open App

 私が小学生の時のお話です。小学校と家の間には川があり、橋を渡って登下校をしていました。橋の近くには、コンクリートで固めた土手があり、川沿いには丈の長い草が生い茂っていました。
 お八つ時に下校をすると、西に傾く日の光がランドセルを背負った子どもたちを見送ってくれます。あの頃の太陽は、夏でもまだ優しい日差しを照らしていました。
 いつかの帰り道です。温かな陽光のもと、橋を越えた先の土手を歩くと、私の右側に影が伸びていきます。そちらは、家々が並び、土手との境には短い草木と車道があります。私の影は草木を覆いました。車道に沿って、もう1人の黒い私が歩いています。
 影の靴底は厚くなって、背が伸びたような感覚に誇らしさを覚えました。一番長く伸びた足は歩くたびに、しなやかな動きを魅せて美しいです。何より私の大根のような足が、線を描いたように細くて真っ黒な足になりました。温かな日の光から生まれた影が、無駄な贅肉を削ってくれたのです。
 私は、こんな細い足になりたいなと影を見つめながら家に帰ります。まるでパリのファッションモデルのような麗しい足取りです。この影を、人は足長の妖怪と見て怯えましょうが、私には理想な大人の姿と夢見ました。こんなにも長くて細い足なら親から馬鹿にされないだろうと、堂々と歩いたものです。
 今では、太陽の光は強さを増し、肌を影よりも黒くさせます。そんな灼熱の陽光に対抗して、空に届きそうな高い建物がたくさん並んでいます。日陰があって涼やかですが、暗く湿った空気で不快な気分になります。
 大人になってから、子どもの頃に夢見た足の長い影の私とは全く会わなくなりました。そもそも、自分の影を見る機会も減りました。
 今日さえも、自分の影を見た覚えがありません。朝の柔らかな日差しでは影を作るのに弱すぎます。理想な陽光が照るお八つ時は、仕事をしていて日に当たりません。帰路に着く頃には、もうすっかりと夜です。
 またいつかどこかで、足の長い影の私と会いたいです。もう一度、あの長い足で道を堂々と歩きたいです。
 太陽が、空のいただきを目指す建物を溶かしてくれたら、どんなに良いでしょうか。低い建物から太陽がやっと顔を出してくれたら、きっと足の長い影の私に会えるでしょう。
 その影も、光線のような強い日差しに黒く焼かれて燃えかすとなるかもしれませんが、夢を見たいものです。たとえ、一瞬の幻でも足長の黒い私に会いたいです。
                   (250419 影絵)

4/19/2025, 1:46:19 PM