おさしみ泥棒

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 一番目が柴犬。次にコーギー。また柴犬。四番目にパグ、五番目にチワワ、最後にフレンチブルドッグ。

「合計六回、散歩中の犬とすれ違った」

 指折り数えて報告すれば、同居人は鍋の中の味噌汁をかき混ぜながら「すごいな。最高記録じゃない?」と言った。

「みんな光る首輪つけてた」
「そっか」
「光ってる犬って愉快だよな」
「わかる」

 味噌汁を一口すくって飲むと、同居人は「うん、うまい」とうなずいた。

「もうできるから、手洗ってきな」
「ん」

 言われたとおりに、俺は洗面所へ向かった。
 洗面台の前に立つと、鏡にうつる自分と目が合う。ネクタイを緩めながら、前より幾分か顔色の良くなった男を眺めた。

 以前の俺は、我ながら幽霊と見紛うほどひどい顔色をしていた。飯を食っても味がしない。夜はまともに眠れず、ただ暗い天井を眺めるばかりだった。
 あいつと同居するようになって、今の職場に転職してからは、それもわりかしマシになったと思う。前までは、帰り道に何回犬とすれ違ったかなんて、気にする余裕はまるでなかった。
 けれどもここ最近は、自販機のちょっと珍しい缶ジュースとか、新しくできたパン屋とか、道端に咲いてるちっちゃい花とか。街中のどうでもいい風景が、自然と目に入ってくるようになった。

 そうだ、今週の土日はあいつと一緒に出かけよう。ふたりで目的もなく街へ出て、どうでもいい幸福を享受しよう。味噌汁の匂いが漂う中で、ぼんやりとそう思った。

【テーマ:街へ】

1/28/2026, 2:16:50 PM