キィ…、ガサッ
ドアを足で止めつつ、ぎっしり詰まったゴミ袋を手繰り寄せる。一息ついて、外へ出た。
都心の夜はぼんやりと暗い。アパートの電灯はひっそりと灯り、湿度の高い空気は汗をかきそうで、袋を出したらすぐ戻ろう、そう思った。
ゴミ袋の中には、定期的に現れる断捨離心の犠牲者―洋服―たちが入っている。
「う…よいしょ!」
ガゴコンッ
スムーズとは言えないゴミ集積箱の蓋を閉めて、玄関までの短い道程をぺたぺたと歩く。ふと、甘い香りが鼻をかすめた。
(…あぁ、なんだっけ)
思い出せず帰り、消灯したまま寝室の窓を開けた。部屋が暗いせいで外の景色が綺麗に映る。
網戸越しに深呼吸すると、先程と同じ香りで肺が満たされて心地よかった。
甘く、濃く、重たい、近所をゆったりと包み込み芳香している。この香りの主をはっきりと思い出した。
(…クチナシだ)
咲くには少し早いようにも思ったが、今日の暑さで花も前のめりになったのかもしれない。
壁に寄せた体が穏やかに呼吸を繰り返す。外は静かで、どこかの洗濯機音だけが聞こえている。
title「真夜中」
5/18/2022, 1:56:15 AM