恋愛無能
私は共感性がない。らしい。
恋愛らしいものも、ほぼしたことがない。
粘膜を交換するキスなんて、ちょっと考えられないくらいハードルが高い。
*
それでも、少しだけ、ほんの少しだけ親しくなった人がいた。
誤解するなかれ、付き合ってなどいない。
ただ、私としては、他の人より少し多く話をする。それだけの関係だった人だ。
相手は友達も多く、私はその中のひとりだったというだけだろう。
というか、人より多く話をする人だから友人が多く、人より多く話をする人だから、あまり話をしない私から見ると「 話をする人」なだけなのだ。
なんの不思議もない。
論理的だ。筋が通っている。
そして、別の日に、私の行動が、彼女の口から密やかに語られるのをたまたま聞いてしまった私は、密やかにショックをうけたのである。
そのとき私がやったのは1つ。
飲み会の帰り道に一緒になった彼女を、私が二人での飲みに「 誘わなかった」。
単に話をして、分かれ道で分かれた。それだけ。
それが、何故か悪い事のように言われていた。
お付き合いどころか、話をするだけで、影で一挙手一投足が「 複数人に」評価されている。
しまいには、相手はそれで傷ついたと涙ながらに語って別の男に慰めてもらっていた。
理解できなかった。
恋愛って、心の交流であると思っていたのは勘違いだったのか。
私はその時、そっと心の扉を閉め、一つの悟りを得たのである。
1人の人間に多くを期待するべきではない。
他人は自分とは違う。
自分が望むような交流を、相手もしたがっているとは言えないのだ。
高いコミュニケーション能力がない人間が、相手の察する能力で「 わかってもらおう」というのが甘えなのだ。
そしてもう一つ。
相手にとって見れば、私は真実、女を傷つけたワルイヤツなのだ。
*
そして、何年も経ち、結婚した彼女は今も色んな人と話をしているようだ。
曰く、夫への不満。
曰く、仕事場で同僚に不満がある。
愛想の良い彼女が周囲にこういう伝えることで、彼女の夫や同僚は少しずつ気まずい思いをするのだろう。
とまあ、ここまで彼女の悪口を書いてしまったが、つまり、何が言いたいかと言うと、こんなことを書いている私は、「すっぱいブドウの話をしているキツネ」と同じで、こんなことを繰り返しているから、恋愛無能なのである。
古来から、手を伸ばさないものに得られるものはないのである。
いわんや、欲しがりもしないなら、なおさらである。
というか、つぶやくアプリの愚痴を見ると、そういう人は珍しくないことが分かる。
身内への不満をばらまく人も、それを見て絶望する人も。
両方、珍しくない。
結婚が減り、子どもが減った原因がこんなところにもあった。
いやいや。
それも一緒だ。
できない原因を探しても、それだけでは解決にはならないのだ。
見つけた原因を解決する行動に出なければ。
心も唇も、自分から欲しがり、近づかないと得られるものなどないのである。
「 本当にほしいか?」を考えてしまうと、私のように思考の迷宮に入る。
多分、深く考えてはいけないことなのだろう。
「 ほしいと思ったときが、チャンス。
自分から動き、あとのことは考えてはいけない。
幸せになりたいならね。 」
あれ?何だか高額商品を売りつける詐欺師の語り口みたいになってしまった。
いや、きっと気のせいだろう。
こんなだから、私は恋愛無能なのだ。
そして、今日も夜中までの仕事に出るのだ。
2/4/2024, 10:43:18 PM