烏羽美空朗

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目的地も決めぬまま、沈みゆく太陽を追い詰めながら俺は歩いていた。
陽光を庇うように立ち塞がる坂を、足を引きずって息を切らし、少し後悔しながらも登り切ると、太陽は既に地平線の彼方へ逃げ切る寸前であった。
どっぷりと海に浸かり、燃え尽きる手前で一段と輝き出した今日の太陽に目を焼かれそうになり、慌てて逸らす。太陽から滲み出た絵の具を溶かした空と海は、毎日数分限定で橙に染まっている。

何の感情もなくそれを眺める。ふと、何故だか無性に叫びたくなった。
理由は不明だ。多分、今なら何を叫んでも夜の訪れと共に消えて、無かったことになるとでも思ったのだろう。それか、年甲斐もなく青春の真似事がしたくなったか。

思い切り息を吸い込んで、目と口を大きく開けて前のめりになる。
……が、特に叫びたいことが見つからなかった喉はただ息を吐き出し、それは大きな溜め息となって潮風に溶けていった。
そんな今の俺は、傍から見れば相当滑稽で不審な姿に映るだろう。

何だか馬鹿馬鹿しくなって、誰かが来る前にさっさと踵を返す。
見下ろす世界からは既に橙は消えていた。

しかし、もし、声が枯れるまで、何かを叫べていたら。
……少しだけ、この馬鹿馬鹿しさを嗤えたかも知れない。

声が枯れるまで

10/21/2022, 1:34:42 PM