「愛があればなんでもできる?」
「愛があればなんでもできる」なんて嘘だと思う。
私は自慢じゃないが、小さいころからかなりモテる。でもそれは、私の外見が好きなだけだということは痛いほど分かっていた。
だから私は、付き合いたいと言われたときは条件を提示する。
といっても、そんなに大袈裟なものではない。私が提示するのは「私のいうことをなんでも聞いてくれること」ただそれだけだ。大抵の男は、二つ返事で喜んで引き受ける。
それなのに、数ヶ月もしないうちに「おまえみたいなワガママな女はご免だ」とか言って、去っていく。
私に告白してくる男なんて本当にくだらない、と思っていた。
だから、幼馴染みの山田から告白されたときは驚いた。山田はいつも私の話を「うんうん」と聞いてくれる兄の大事な存在で、他の男とは違うと思ってたのに。内心正直がっかりしたが、気持ちを切り替えて山田にこう告げた。
「山田が告白してくるなんて正直驚いたけど、まあ、山田でも私の言うことをなんでも聞いてくれるなら付き合うよ」
「その条件は知ってるけど、俺はそれは約束できない。俺には俺の生活があるからな。急に来いって言われたって、行けないときだってあるし。そんなの約束する方が不誠実だろ」
「じゃあ、無理だよ、そんなの山田なら知ってるのに、なんでわざわざ告白なんてしてきたの」
「本当は、告白なんてするつもりはなかった。俺は、そばにいれるだけで十分に幸せだったし、この関係を崩したくもなかった。でも、正直、そんなくだらない条件を提示して、それを飲むような下らない男をとっかえひっかえしてるのは、見てて辛かった。俺じゃなくていいんだ。本当に、お前を大事にしたいと思っているやつと付き合ってくれることを願ってるから。それだけを伝えたくて、告白しただけだから。じゃあな」
それだけを言い残して、山田は去っていった。
思いもよらない山田からの言葉に、涙がこぼれ落ちた。
「愛があれば何でもできる」なんてやはり嘘っぱちだ。
私が愛だと思っていたのは愛ではなかったのだと悟った瞬間、思わず山田を追いかけて走り出していた。
5/16/2024, 7:03:08 PM