「無色の世界」
結局わたしはあのままだった。
何ひとつ変わっちゃいなかった。
変わったふりをしていた。必死で演じているだけだった。
後ろからの足音やしゃべり声が、何度も何度もわたしを追い越していく。
片方の紐がちぎれたランチバッグを握りしめている。
えも言われぬ大きなものに対面した幼児のようだ。これでは後退だ。
何を? どこを? いまさら?
わたしはとっくに後ずさっていたのでは?
ぼとり。ランチバッグがアスファルトに落ちた。硬い、地面に。
もう片方の紐ももちぎれていた。
その瞬間、わたしのなかでも何かが切れた。
思いついた友人に電話をかけた。出なかった。
今は歯医者にいるのだという。
電話が繋がったとして、どうすればよかっただろう。どうせ何も変わらない。変えられるはずがない、わたしがわたしである限り。
ほんのかすかな奇跡を求めて歩みが速くなった。鈍い脚の筋肉が懸命に伸縮する。
エスカレーターを上って駅のホームに着いたとき、ほんのかすかな奇跡は訪れなかった。
黙って足元の番号に並び、電車を待つ。下まぶたがカサついている。
お腹がすいた。
4/19/2026, 9:10:23 AM