ななせ

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かたり。
家の中で、音がするでしょう。
私はそれが怖いんです。
食器棚のカップが動いた音で、蛇口から水が滴る音で、私は心臓が止まりそうになる。
友人は私を怖がりと笑うんです。
けれど、ああ、友人は知らないのです。
隙間から、暗闇から、此方を伺う黄色い瞳を!

それは私の虚妄ではないのです。確かにそれは存在しているのです。現に今も、私の部屋に住み着いている!
それは瞳を見せるのです。いやに黄色い強膜と、見るだけで総毛立つ真っ赤な瞳孔。私はあれを見ると、もう死んだ方がマシだとさえ思うのです。
いえ、瞳だけなら耐えれましょう。頭まですっぽり布団を被ってしまえば分からないのですから。しかし、それはとうとうこの間、私に手を伸ばしたのです!
ああ、あああ。思い出すにもおぞましい。それは私がベッドで横になっている時でした。私はあれが見えるのが嫌で、布団を被って寝ていたのですが、息苦しくって首を出したのです。すると、あれは私の方へ手をこまねいているではありませんか!
今まであんなに近くにいた事はなかったのに、私とあれとは、目と鼻の先程の距離しか開いていないのです。それは口も存在しているようでした。にたりと笑う口内に、火のような舌がチラリと見えました。

ねえ、どうお思いですか?
初めは瞳だけでしたでしょう。
そして次は手。
私は怖いのです。
いつかあれが全身を表すのではないかと。



ぼとり。
ひい。
嫌な音がしました。大きい音です。何か落ちましたね。何でしょうか。

がた、がたがた。
何かがどこかに手をかけて、立ち上がろうとしているのでしょう。

ぱたぱたぱたぱた
こちらへ向かって来ていますね。

ぱたり。
ああ、止まった。ねえ、あなたには、私の後ろにいるのが見えますか?


お題『怖がり』

3/16/2024, 12:39:23 PM