水晶

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『静かなる森へ』

自宅から数キロ離れた山際にある家の畑。
両親がそこで作業する間、幼い私と妹はいつも近くで遊んで過ごした。
「勝手に山へ入ってはいけないよ」 
母の言葉にふたりで頷く。が、奥に広がる静かな森は特別なものがある訳ではないが何故か魅力的に見えた。

ある日、どうして山へ行ってはいけないの?と問うと、母は山の方からふたりを手招きで呼んだ。
「見ててごらん」
母が数メートル先に向かってこぶし大の石を投げる。と、いきなりガサガサと音を立てながら茂みから大きなヘビが飛び出して来た。

驚き過ぎて声も出せずにその場で固まる。
それを見て、母はまた別な場所へ私達を呼ぶと今度は目の前の木を指差した。
「これは漆(うるし)の木だよ」
触るとかぶれることがあるのだと言う。
見た目は普通なのに、なんて危ない木なんだろう。
こうして母は山の楽しさを知る前に、先に山の危険を教えてくれたのだった。

5/11/2025, 9:44:54 AM