燈火

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【目が覚めると】


朝のルーティーンに欠かせないものがある。
苦くて嫌いだけど、君の淹れるコーヒーは好き。
ミルクも砂糖も入れないで、ブラックを流し込む。
これを飲みたくて、早起きできるようになった。

「おはよう」と言うと「おはよう」と笑ってくれる。
そんな甘さをコーヒーが中和して、僕は仕事に出る。
君と生きるため、今日も頑張ろうと意気込んで。

たった一杯を飲む時間。僕と君は食卓を囲んで話をする。
昨日はあんな事があって、今日はこんな事をするの。
楽しそうに弾む声と笑顔から、僕は元気をもらっていた。
それでも、目元に浮かぶ隈に気づいてしまったから。

「おはよう」と言うと「うん」と曖昧に笑う。
「コーヒー飲む?」「……もらおうかな」
それはあまりに苦くて、ちっとも美味しくなかった。

コーヒーなんて本当はどうでもいい。
元より飲む習慣など無かったのだから。
ドリップでも、インスタントでも。
君が淹れたものなら、なんでも嬉しい。だけど。

「コーヒー飲む?」「や、今日はいいや」
「そっか」寂しそうに、沈んだ声で君はつぶやいた。
君の負担になるのなら、朝のコーヒーなんていらない。

翌朝から、君は「コーヒー飲む?」と聞かなくなった。
ドリップもインスタントも無くなって、買うこともない。
僕の「おはよう」に言葉を返すこともしなくなった。
あのコーヒーを恋しいと思うのは自分勝手だろうか。

僕より遅くに眠る君は、今日も先に起きている。
「おはよう。コーヒーもらっていい?」
君は嬉しそうに微笑む。「おはよう、いま淹れるね」

7/10/2023, 6:23:12 PM