悪役令嬢

Open App

『不条理』

とある集会にて、悪役令嬢は苛立っていた。
「どうしましたか?」
「あら、魔術師。あなたでしたの。ここへ来る前に
タチの悪い酔っ払いに絡まれましたのよ」
「それは災難でしたね。セバスチャンは何処に?」
「彼はお休みですわ。最近働き詰めだったから
私が休暇を取らせました。
それよりも、聞いてくださいまし!」
悪役令嬢は先程の出来事を語り始めた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
路上に立ち客引きをする女たち。
それを値踏みするかのように眺める男たち。
ここは治安があまりよくないとは聞いていたが、
その異様な光景を目にして悪役令嬢は呆然とした。

足早に歩みを進める彼女にある男が声をかけてきた。
薄汚れた服に垢の溜まった爪、無精髭を生やした赤ら顔の男がニヤついた顔でこちらを見ている。
この者に関わってはいけない。
直感でそう判断した悪役令嬢は無視して立ち去ろうとするが、それでも男はしつこく付きまとってきた。

「冷たいなあ。そんなんじゃ選んでもらえないよ?」
酒気を帯びた息を吹きかけられて
悪役令嬢は眉をひそめる。

「綺麗なおべべを着てるね~、いいねえ。
さぞ大切にされて育ったんだろうなあ。
おじさんも若くてべっぴんさんに生まれたら、
もっとラクに稼げただろうになあ」
男の舐めるような視線に嫌悪感を覚える悪役令嬢。

「この先に休める場所があるから一緒に行こうよ」
そう言って、肩を抱いてこようとする男の手を
悪役令嬢は扇子でぴしゃりと叩く。

「無礼者!気安く触れないでいただけます?」
男にそう言い放った悪役令嬢はドレスの裾を持ち上げ、全力疾走でここまで逃げてきた、と。
話終えると先程まで燻っていた怒りも収まってきた。

「なるほど…その者は恐らく、この近くの鉱山で働く労働者でしょう。ここ一帯の娯楽施設は、元々彼らのために作られた場所ですから」

炭鉱者
過酷な労働環境にも関わず、
大した賃金はもらえないと聞く。
一日中働いで稼いだ日銭も仕事の疲れを
忘れるための酒や女に消えていくとか。

粗末な身なりの炭鉱者に路上に立つ娼婦。
彼らはこの先も、己の身を削りながら
働き続けるのだろうか。

貴族の娘として生まれ、何不自由なく暮らしてきた
悪役令嬢がそんなことを考える傍らで、
魔術師が何やら語り始めた。

「やはり、いざという時己の身は己で守らないといけませんね。そんなお嬢様にぴったりの道具がここに!最新式の防犯グッズはいかがですか?こちらお値段…
「結構ですわ!」

3/18/2024, 12:53:08 PM