G14

Open App

「あ、リクちゃんきた」
 朝登校すると、友人のウミがあたしのもとに走り寄ってくる。
 何かあったのか?

「ウミはね、分かってない事がたくさんあるんだよ」
「突然何?
 あんたの何が分かってないって?
 不思議ちゃんキャラに転向したか?」
「違うよ。ウミじゃなくって、海、青い海の事」
 ああ、そっちか。紛らわしい。

「昨日、深海のテーマにしたドキュメンタリーを見たの」
「……昨日そんなのやってた?」
「撮りためた奴だよ」
「なるほど」
 すごいな、撮ったやつ見てるんだ。
 あたしは録画したら、それで満足して見ていないのに……

「とくに深海魚は全然分かってないの。
 人類はまだ深い海の底には気軽に行けないからね」
「ふーん」
 深海魚ね。
 やたらグロテスクなイメージしかない。
 解明されなくてもいいのでは?

「だから週末、捕まえに行こうよ。
 新種見つけて有名になろう」
 ウミがとんでもないことを言い出した。

「なんでだ。
 深海に行けるわけないだろ。
 さっき人類が気軽に行けないって言ったじゃん。
 あと魚には興味ない」
 そう言うと、ウミは『ええ』と意外そうな声を上げる。

「ロマンだよ」
「だからこそ興味が無い」
 ロマンで腹は膨れぬ。

「じゃあ何に興味あるのさ」
「そうだね。同じ深海なら、海の底に沈んだ船のお宝に興味がある」
「それもロマンじゃん」
「売り払えば金になる」
「夢が無い」
 ウミはがっかりしたようだったが、それが現実だ。
 好きな人には悪いけど。

「そんなに魚好きだったっけ、あんた。
 番組が面白かったの?」
「うん、それもあるんだけどさあ」
 彼女にしては珍しく言葉を濁す。

「あー、言いにくいなら別に」
「大丈夫。言い方を考えてただけだから」
「そっか」
 言い方考えるほどの事か……
 恐いな、今から何聞かされるんだろう。
 
「えっとね。出てきた深海魚、おいしそうだなって思って」
「は?」
「焼き魚とか、刺身で食べられるのかなとか、
「は?」
 予想以上だった。
 普通、深海魚見て食べたいと思うか?
 あたしは無い。
 だってグロイから。

「話してたらお腹減ったな。
 寿司食べるか」
「え?」
 そう言って、ウミは教室の後ろのロッカーから、保冷ボックスを持ってくる。
 あたしの前でボックスが開けられると、閉じ込められた冷気が頬を撫でる。
 見れば寿司のパックとともに、保冷材がぎっしり入っている。

「昨日番組見てから、寿司が食べたくなっちゃって。
 お昼に食べようと思ってもって来たの。
 食べる?
 たくさんあるから大丈夫だよ」

 そう言って寿司のパックを差し出されたあたしは、無言でそれを受け取る。
 ダイエットのため朝食を抜いた成長期の体は、目の前の寿司を食べたいと訴え、勝手に体が動き始める。

 自分の意志に反し動く手を見つめながら、ウミのことについて考えていた。
 彼女との付き合いは結構長く、ウミの事なら何でも知っていると思っていた。
 でもそれは勘違いだったらしい。
 ウミの底は計り知れない。
 寿司を頬張りながら、そう思うのだった。

1/21/2024, 9:56:49 AM