悪役令嬢

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『楽園』

ワタクシは、
教祖と呼ばれる男のもとで生を受けました。

『Safe Heaven』
教祖である父を崇め信仰を貫けば
いずれこの辛い現世から解き放たれ
『楽園』へと導いてくださる
その教えのもと生きてきました。

神の手を持つものと呼ばれ、
人々から病や悪霊を取り除く救世主として
各地を転々と渡り歩いてきた父。

ですが本当は神の力など持ち合わせておりません。
全ては信者を使った自作自演だったのです。

表の顔は皆から慕われる温厚な教祖、
裏では凶暴かつ色好きで自分を神と錯覚する愚者、
それが父の真の姿でした。

十戒には姦淫してはならない、隣人の妻を欲してはならないと記されていましたが、父は
夫を持つ信者の女たちと関係を持っていました。
人妻だけでは飽き足らず、初潮を迎えていない少女、
少年や男にまで手を出していたのです。

肉体と精神の解放を謳った集会場で
見た光景をワタクシは今でも忘れられません。
あれこそがソドムと呼ばれるものなのでしょう。

最初は人々を救うためにできた信仰も、規模が大きくなるにつれ、金と権力と欲に溺れる邪悪な存在へと姿を変えてゆきます。

教団内では虐待、性的暴行、自殺など神の教えに反する行為が後を絶ちませんでした。

それに耐えきれなくなり脱退した信者たちも大勢います。彼らの内部告発により、教団の悪行が世に知れ渡ると、追い詰められた父は数千人の信者を引き連れて国外へ逃亡しました。

その後も父は、信者を使った殺人や教唆を繰り返し、
罪を重ねた末、信者たち共に毒をあおる
集団自決を決行したのです。
犠牲者の中には子どもや赤ん坊もいました。

ワタクシは、父から渡された毒入りの葡萄酒を口に
含んだよう見せかけて、服の中に流し込みました。
目を瞑り、死体のようにじっと床に伏せたワタクシの耳に聞こえてきたものは、子供を失い泣き叫ぶ親の慟哭、父を崇め奉る信者たちの歌声、近付いてくる死への恐怖に怯える悲鳴。

やがて音が止み、あたりは静寂に包まれました。

ワタクシは立ち上がり周囲を見回します。
苦悶、絶望あるいは恍惚とした表情で
絶命する信者たち、そして父の亡骸。

『我々の魂はひとつとなり楽園へ辿り着くだろう』
これが信者たちに言い残した父の最後の言葉です。

父よ、これがあなたの望んだ楽園なのか。
楽園など何処にも存在しない。
ここにあるものは偽りの神を作り出した
愚かな人間だけ────

4/30/2024, 8:45:06 PM