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 どうして


「ねえ、わたし貴方が好きよ」

その言葉を聞いた瞬間、私は頭を殴られたような衝撃に襲われた。
思考が一気に真っ白になり、音が遠のく。
目の前の景色は輪郭を失い、意味を持たなくなった。
彼女の表情を見ようとする前に、脳が拒絶した。
これ以上、見たくない。聞きたくない。
脳が全身に「逃げろ」と信号を送る。
それなのに身体は凍りついたように動かず、口も開かない。
呼吸の仕方すら、わからなくなりそうだった。

彼女の隣にいるために、諦めて。
彼女の幸せのために、距離を取って。
何度も、何度も、自分の気持ちを殺してきた。

その結果がこの仕打ちだというのだろうか。

「……ようやく気づいたの。遅すぎた、よね。ごめんね」

胸の奥で何かがぐちゃりと潰れる音がした気がした。
頭がうまく働かない。
この感情がなんなのか、この感情をどう処理したらいいのか、もう何もわからなかった。
ただただ不快で、不当で、理不尽だった。

私は、終わらせたのだ。
自分の中で、きちんと。
彼女を好きだった時間に区切りをつけて、思い出を綺麗なまま棚に並べて。
触れないようにして生きてきた。

それを、どうして今さら。

彼女はきっと軽い気持ちで言ったわけじゃない。
苦しんで、悩んで、考え抜いた末の言葉なのだろう。
それくらいわかってしまう自分が嫌だった。

綺麗な思い出のままでいられると思っていた。
知らなければ、私はこのまま彼女を静かに想っていられたのに。

あなたはまた、私を傷つけるのね。

彼女はもう前を向いている。
結ばれないことも、戻れないことも、全部理解したうえで、ここに立っている。

取り残されているのは、私だけだ。

あなたはいつも私をおいていってしまう。
あなたの隣にいたいだけなのに、それすら許されないというのだろうか。

あなたを好きでいることは痛くて痛くて堪らなかった。
いっそ嫌いになりたいと何度も願った。

それでも、私はあなたが好きだった。

何か言わなければいけない気がした。
でも、言葉はどれも違った。
責めるには遅すぎて、許すには、あまりにも残酷で。

「……そう」

ようやく絞り出したそれは理解でも拒絶でもなく、ただの終わりだった。

何もかも全部、
どうしようもなく、手遅れだった。

1/14/2026, 8:09:04 PM