燈火

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【終わらない問い】


ときに女の人は、物言いたげに見つめることがある
それは、私の心を察してほしいというアピール。
どんなに親しい相手でも心の内なんて読めないのに。
放っておくと不機嫌になるのが面倒なところ。

「どうしたの?」わからない、の意思表示。
「なんでもないの」そう言われたらおしまいだ。
だけど。「そう?」引き下がってはいけない。
「僕でよければ話聞くよ」ダメ押しのもう一回。

そうして聞き出した話は、大概しょうもない。
あなたって私のこと本当に好き? とか。
私より可愛い子なんていくらでもいるよね、とか。
肯定されたい言葉を疑問形にしてぶつけてくる。

勝手に考え込んで、勝手に不安になっているだけ。
自己完結させて満足できるなら、僕は楽なのに。
好きだよ。君が一番可愛いよ。オウム返しで答える。
時間はかかるけど、そのうち無意味な質問は終わる。

相手に縛られるなら恋愛なんてしなければいい。
顔を合わせれば不満をこぼし、深夜に電話が鳴る。
その度に、僕の好きになった君の姿が霞んでいく。
あまりにもうざったくて、一方的に別れを告げた。

「あなたはお父さんみたいにならないわよね?」
浮気をした父親に囚われた母親の言動を思い出す。
お父さんみたい、が何を指すのか知らないけれど。
「ならないよ」僕は笑顔を取り繕って答えた。

母親は、僕の答えにまるで納得していなかった。
不躾に投げられる疑惑の目がひどく不快だった。
「なに?」「なんでもないのよ。なんでもない」
あの時、母親は何を察してほしかったのだろうか。

10/27/2025, 8:18:18 AM