旅路の果てに
チャカポコチャカポコ…チャカポコチャカポコ
なぜ俺はこの気狂い男の奇妙な歌を聴きながら最期を迎えなければならないのだろうか…
…俺は何か大きなことを成し遂げることも、人生がどん底に落っこちるような大失敗をすることもなかった。
言わばクソほどつまらない人生だった。
けれど妻も子供もいて、さらには孫もできた。
とりわけ面白いこともなかったが確かに幸せだった。
最期は愛する家族に囲まれて死ぬんだ、そう思っていた。
チャカポコチャカポコ…チャカポコチャカポコ
なのになんだこのチャカポコ男は…
極めて奇怪な言葉を発するこの男は容貌、所作、臭気…どれをとっても奇怪である。
恐ろしいほどに鼻が高く尖っており、これでもかと言うほど口角を上げニタニタと笑っているその姿は悪魔のようだ。
動くたびに揺れるボサボサな長髪と口から覗く黄色い歯からは清潔感がまるで感じられない。
この奇妙な光景を見ているだけでも気が狂いそうになるが、それ以上に俺を苦しめているのがこの男が動くたびに漂ってくるこの悪臭だ。
「腐敗臭」という言葉が一番近いだろうが、これは腐敗臭ではない。
正確に言えば腐敗臭だけではない。
この世の全ての悪臭を練り合わせた臭いだ。
言い過ぎではない。まじでクソ臭いのだ。この臭いを嗅ぐたびに寿命が縮んでいるのではないかという気さえしてくる。
最悪だ…俺はもう死ぬというのに…
チャカポコチャカポコ…チャカポコチャカポコ
チャカポコチャカポコ…チャカポコチャカポコ
……俺は本当にこのまま死ぬのか?
チャカポコチャカポコ
…なんで俺はもうすぐ死ぬというのに家族がいないんだ?
チャカポコチャカポコ
…俺はさっきまで何をしていたんだ?
チャカポコチャカポコ
…なんで俺は死ぬんだ?
チャカポコチャカポコ
…俺は死ぬ気がする
チャカポコチャカポコ
…俺は家族で出かけてた気がする
チャカポコチャカポコ
…俺は一人で出かけてた気がする
チャカポコチャカポコ
…俺は病院で寝てた気がする
チャカポコチャカポコ
…俺はさっき生まれた気がする
チャカポコチャカポコ
…俺は、俺は、おれは
…チャカポコチャカポコ…チャカポコチャカポコ……
1/31/2024, 2:57:29 PM