せつか

Open App

「クリスマスだから、年末だからって装飾される並木や建物や公園も綺麗だと思うけど」

コンビニのホットコーヒーを飲みながら、階段を一段一段上っていく。
吐く息が白い。同じように階段を上りながら、私は彼の顔を盗み見る。夜の山道は暗く、ところどころにポツンと灯りがあるばかりで、彼の顔もはっきりとは見えない。けれど弾んだ声の穏やかさと足取りの軽やかさで、彼が今どんな顔をしているのかを想像する。

きっと子供みたいに目を輝かせているのだろう。

「着いたよ」
街の北端にある小さな山。
初めて登った山の頂きは少し開けて、こじんまりとした展望台が設置してあった。とは言っても、ベンチと柵があるだけの、本当に簡素なものだったけれど。
彼はゆったりとした足取りで、柵のギリギリまで近付いていく。私も後をついていく。

「……」
目の前に広がっていたのは、きらきらと輝く星の海。
昔見た天の川の写真を思い出した。
「俺はここから見る街の景色の方が好きだな」
ちかちかと点滅する光点。連なるオレンジ。薄緑色に輝くタワー。人の営みが宝石になって街という箱の中で煌めいている。
レストラン、マンション、教会、居酒屋、ゲームセンター、病院、コンビニ、風俗店……そこには聖も俗も無い。みんなみんな、輝く光になっている。
「この中に冬限定のイルミネーションもあるんだろうけど、ここから見てるとさ、わざわざ飾り立てなくたっていいのにって思わない?」
煌めく宝石を背に微笑む彼は、私の目に他の何より輝いて見えた。


END

「イルミネーション」

12/14/2023, 4:07:09 PM