私は先月から「悪魔のお気に入り」になってしまった。
異形の姿をした悪魔は、多くの人から恐れられている。
そんな悪魔は私においしい食事を与え、キレイで清潔な衣服を着せ、あたたかなベッドで眠らせてくれる。
お願いをすれば聞いてくれるし、やりたくないことはやらせないでくれる。
でも、悪いことをしたら叱ってくれるし、やりたくないことでも必要なことなら諭してくれる。
そんな生活が続いたある日、1人の男が私の元に訪ねてきた。
「君を悪魔から助けに来た! さあ、ここから逃げよう!」
私は男をキッと睨む。
「嫌よ! 悪魔以外の奴は私を殴るし、貶すし、食事すら満足に与えてくれなかったんだから!
私はここで悪魔と暮らすわ!」
男は悲しそうな顔をした。
「君は悪魔に騙されているんだ! 早く逃げないと食われるぞ!」
その言葉に私は思わず嗤う。
「その悪魔に生贄として私を寄越したのは、村のみんなよ。むしろ食われるのは本望じゃないの?」
男は何か言おうとするが、言葉にならなかった。
その時、男の後ろから悪魔が現れる。
蒼白になる男を、悪魔は軽く殴って気絶させた。
「外に置いてくる」
男を連れて悪魔は部屋から出ていく。
男を置いて戻ってきた悪魔を私は抱きしめた。
「私はずっとここにいるわ。たとえあなたが何者でも」
ここに来てから、私は他者のあたたかさを知ったのだ。その相手がたまたま異形だっただけ。
この悪魔なら食べられても構わないと、思っている。
その日が来ても来なくても、私は一生、悪魔と共に暮らすのだ。
それが今の私の望みだ。
2/18/2024, 6:26:49 AM